第6回(最終回) 自転車とドイツ社会の濃すぎる関係

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それでも走りやすい「自転車の町」

エアランゲンの話に戻ろう。同市に住む筆者は市内での取材などは、ほとんど自転車で向かう。そのような日常生活から個人的な印象も述べておく。

まずドイツの一般的「町乗り用自転車」は、いわゆる「ママちゃり」に比べて相対的にスポーティなデザインと機能のものが多い。数年前からは電動アシスト付きの自転車も増えた。つまりスピードが出る。しかし自転車使用者は若者から高齢者まで年齢幅が広いの「のんびり乗りたい」「飛ばしたい」といった趣向や身体能力の差が走り方の違いとして出ていると思う。

通勤・通学時間は自転車道まではみ出て並ぶ歩行者がいる。その逆に自転車が2、3台並走し、歩行者とぶつかりそうになるということはある。こういった歩行者との「摩擦」は調査でも顕在化している。

最近、実は自動車もルール違反やアグレッシブな運転をするドライバーの増加が問題になっている。しかし交差点などでは自転車に配慮して自動車が減速したり、止まったりするケースのほうが多い。スポーツ・レジャーとしてサイクリングスーツに身を固めた人がレースタイプの自転車に乗って自動車道を飛ばしていくケースも時々あるが自動車のほうががかなり気を遣っている印象がある。

以上のようなことからいえば、確かにエアランゲンでも問題はある。また2010年に市が行った調査でも無理な運転をする人も増えていると指摘している。それでもどちらかといえば安心して、かつ最短距離で移動できる自転車の町だと思う。同調査の回答者によれば、自転車道での走行に対して安全性を感じるとする人が多く、95%が自転車にやさしい町と評価している。

赤いネクタイの人がバライス現市長

ひるがえって環境問題、エネルギー問題などを背景に、あるいは健康によいモビリティという観点から、今後自転車の使用はますます増えていくだろう。
 元祖「自転車の町」のエアランゲン市も1996年に現在のシーグフリード・バライス博士が市長になってからは自転車道メインの政策というわけではなかったが、それでも整備は継続されていた。

ここにきて自転車への注目が集まる。それをうけるかたちで、数年前からエアランゲン市は近隣の自治体との協力関係を作っている。都市交通としての自転車道を向上させようとしているわけだ。
 同市はそんな連携のリーダーでバイエルン州内トップの自転車の町になっている。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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