第5回 ドイツから考える、体罰が生まれない理由

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平等の理念と歴史

体操の創始者ヤーンの肖像画を持ったスポーツ・クラブのメンバー

スポーツ・クラブの歴史は長い。19世紀にトゥルネン(体操)の興隆があったのがそのはじまりと考えてよいだろう。トゥルネンとは器械体操や集団で行う体操などを中心に行われるもので、フリードリッヒ・ルードヴィッヒ・ヤーンが始めた。その背後には1806年にナポレオンにプロイセンが占領された経緯がある。
 これに対して軍隊増強の機運が高まるが、新兵の養成のために体育教育に関心が高まった。その後、無政府主義者と危険視されるなど紆余曲折はあるが、体操は健康で美しい身体をつくることを目的に、ひいては理想主義者の愛国心を高めることにつながるとされ、国民意識を高めることにつながった。
 そんなことから今日でもヤーンの名前を冠した体育館や通りがあちらこちらにある。

19世紀半ばには地域ごとにクラブが次々に作られた。スポーツ・クラブの略称には「T」がつくところが多いが、これは体操(Turnen/トゥルネン)の略。ブンデスリーガの「TSG 1899ホッフェンハイム」にもその名残を見ることができる。

またスポーツ・クラブには中流階級も所属でき、所属するものは身分を超えた平等な関係とされた。この当時、数多くの体操家やクラブを題材にした歌も作られ、歌詞のなかには兄弟愛といった言葉が入っていて、団結をうたったものも散見される。こうした歌は現在もクラブによっては総会で歌われることもある。

平等なメンバーシップの精神は言葉遣いにも反映されている。ドイツ語には「Du(ドゥ)」(君、おまえ)という親称と「Sie(ジー)」(あなた)という社交称があるが、実はどの程度親しくなれば「あなた」から「おまえ」にすればよいか、ドイツ語母語者にとっても難しい部分がある。
 しかしスポーツ・クラブの場合、メンバーになったとたん、相手が政治家であろうが、教授であろうがお互いDu=おまえを用いる。

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