いつまで人間は「今の仕事」を任せてもらえるか 8割超のホワイトカラーの仕事はどうなる

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「お金」の役割や存在意義が一定だった時代とそれらが消滅した後とでは、当然ですが同じ経済学がそのまま成り立つとは考えられません。実際に現在でも、たかだかモノやサービスの値段をゼロにするだけで、人々が従来の経済理論では説明できない行動を起こす事例が多数報告されています(『予想どおりに不合理――行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房)。

さて、カーツワイルが提唱する特異点とは、具体的には現在の価格で1000ドルほどのコストのコンピューターで、全人類70億人分の脳の神経細胞のネットワークをシミュレーション、つまり模擬できる時点を指します。

そのことを一人ひとりが人類全体に匹敵する知を活用可能になる、ということだと考えるならば、これまで私たちがあらゆることを考える際に前提としていた技術進化的な観点が崩れ、そこから先の社会変化を論ずることができなくなります。平たく言えば、その先何が起こるか、まったく予想がつかなくなるというわけです。なおカーツワイルは、この「特異点」への到達を2040年代と予言しています。

しかし、これはよく言われるような「機械は人を超えるか」という議論でもなんでもなく、基本的にはハードウェアの進歩について言っているのだということは注意すべきでしょう。

そもそも脳をシミュレーションしたところで、意識は生まれないかもしれません。そのうえで、過去に目を向ければ、ハードウェアの進歩によって飛躍的にソフトウェアでできることが拡大したことは事実であり、近い将来におけるソフトウェア技術の爆発的な進化を想定する必要があります。

少なくとも、コンピューターの認知能力や制御能力が向上することで、現状よりはるかに社会の自動化は進むことになるでしょう。そしてその過程で多くの仕事が消える、もしくはその形を変えるのも間違いありません。

RPAによって市役所業務の8割以上が削減された

RPA(Robotic Process Automation の略。ソフトウェアロボットによる定型作業の自動化のこと)は、技術と仕事についてこれから起きていく変化の先駆けだと言えます。おおむねRPAは、これまでホワイトカラーが担うとされた業務の自動化を図る方法の1つです。

ただし自動化といっても、現状では「ICT(Information and Communication Technologyの略。情報通信技術のこと)」を事業の中心として取り扱うような組織だったらすでに当たり前とされるような仕組みが、徐々にさまざまな企業や業種へと広がっているレベルにすぎません。

RPAは業務を分析することですべてをシステム化し、それにより大きく改善していく、というより、今の業務フローの中で、誰かが表計算の書式を作り、それを使ってやっている作業をそのまま、デジタルツールを用いることで自動化する、といった方法をもっぱら意味します。

つまり、今までのやり方を根底から覆すのではなく、あくまでツールを導入するなどして人の役割を一部代替するだけですので、導入への抵抗が小さく、それだけに普及の速度が速まりつつあるのです。

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