「認知症」で別人格になった母を介護できますか 小学生の娘との関係も悪くなってしまった

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母娘関係がギスギスして、「お父さんとは手をつなぐけどお母さんとはつながない」「お父さんと留守番してるから、おばあちゃんのところへ行けばいいよ」、そんなことを言われてしまう。介護2年目の後半=娘の2年生の後半で、桜井さんは「このままでいいのか?」と悩み始めた。

娘が3年生になった頃、小学校のスクールカウンセラーに「家庭の問題を相談してもいいですか?」と尋ねると、快く受け入れられる。

「介護経験があり、認知症にも理解がある方だったので、1年半くらい相談を聞いてもらいました。育児と介護の大変さをわかってくれて、『どちらも完璧にはできませんよ』という言葉に救われました」

5年生になった娘は、また手をつないでくれるようになった。

目標は「ダブルケアカフェ」と「海外旅行」

桜井さんは、ずっと孤独を感じていた。

「母は、介護しても介護してもよくはならないので、やりがいが感じられず、私の場合はダブルケアで遠距離介護なので、周りに同じ経験している人もおらず、寂しかったです。介護の家族会や遠距離介護の会に行くと、介護の話はできても、子育ての話はできない。新宿のケアラーズサロンにも行きましたが、独身の方ばかり。どこへ行っても満たされませんでした」

横浜や茅ヶ崎のダブルケアサポート団体のイベントや講演会に行き、羨ましく思った桜井さんは、東京で活躍するダブルケア研究者を探したり、TwitterやFacebookでダブルケア仲間を集め、「自分でダブルケアカフェを開きたい」と考える。そんなとき、社会福祉協議会や包括支援センターの方と会い、「東京でもやってみましょう」と意気投合。開催に向けて準備を進めている。

「介護で行けないことが多かったので、今年は娘の学校行事に積極的に参加しています。今年度は学校の役員も引き受けましたし、実家がまだ母が暮らしていた頃のままなので、片付けが終わったら働き始めたいと思っています。やりたいことはあるけど、お金がないので……」

そんな桜井さんのストレス解消法は、YouTubeで動画を見て思い切り笑ったり、海外のグルメブログを見て行った気になること。

「今すごく海外旅行がしたいのですが、母からいつ連絡が来るか気が気でない。かと言って介護を終わらせてから行こうと思うのは親の死を望むことになる。だからもう、生きているうちに行っちゃおうと思って、先日、切れていたパスポートを申請してきました。中国や韓国など、近場で日帰りでもいい。毎日母と娘の世話で、自分の時間はほぼゼロ。少しくらいの息抜きなら、許されるんじゃないかと思っています」

「丸々5年くらい休めていない感じがする」という桜井さん。ぜひ海外で思い切り羽を伸ばしてきてほしい。

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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