被災路線を突然移管、JR東が変心した理由 山田線を三陸鉄道に移管する方針転換

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その後の懸命な復旧工事の末、今年4月5日に南リアス線(釜石─盛間)、6日に北リアス線(久慈─宮古間)が全線開通する。

三陸鉄道の南北リアス線は、生活路線として通勤、通学に便利なように運行スケジュールが組まれている。山田線もそれと連動するようなダイヤを組めば、利用客の利便性が高まるはず。ところが、東北新幹線との接続駅である盛岡との連絡も考慮する必要があるため、三陸鉄道のダイヤに配慮した運行スケジュールが組みにくい。「三陸鉄道さんのように地域密着型の『マイレール意識』がある会社になかなかなりきれなかった」(山口氏)。

JR東は山田線の収支状況を公表していない。だが、JR東が抱える路線の中で、利用者の少なさはワースト3に入る。赤字が経営の足かせになっているのは容易に想像できる。山田線から分岐する岩泉線(岩泉─茂市間、38.4キロメートル)は、営業収入800万円に対して営業費用2億6500万円という超赤字路線。2010年7月の土砂崩れで不通となったまま復旧されることなく、14年4月1日付での廃止が決定している。そこから考えれば、山田線を三陸鉄道に移管する本当の理由が、「赤字路線の切り捨て」だとしても不思議はない。

震災直後、三陸の被災路線について沿線住民からは「このまま復旧せず廃線になるのではないか」という悲観論も出る中で、JR東の清野智会長(当時社長)は、「被災した路線は責任を持って復旧させる」と宣言した。

だが、その言葉と裏腹に復旧はなかなか進んでいない。内陸への線路移設など議論が長期化する中、気仙沼線(気仙沼─柳津間)は12年8月、大船渡線(盛─気仙沼間)は13年3月に、BRTによる仮復旧を選択した。

山田線についても、三陸鉄道への移管案を1月末に突然持ち出したことで、「責任を持って復旧させる、という発言は何だったのか」との批判がある。これに対し、JR東は「責任については、赤字の補填や設備などで相応の支援をすることで、応えていきたい」(山口氏)と回答していた。

赤字続く三陸鉄道

今後の焦点は、JR東の案を沿線自治体が受け入れるかどうかだ。

もともと三陸鉄道の南北リアス線は、どちらも旧国鉄の路線として建設が始まったが、国鉄の財政悪化で、完成を前にして廃止が決定した。途中で放り出された両線を、地元が引き受け、現在まで維持している。ただ、少子高齢化や自動車の増加で利用者数は減少が続き、経常損益は前期まで19年連続の赤字だ。

実際に山田線の移管を受けるとなれば、南北リアス線と一体運営することで利用者が増える可能性がある。その一方、JR東に代わって設備を保有する自治体にとって維持費などの負担は増える。JR東による補填があるのは山田線の赤字分のみ。三陸鉄道の経営が厳しいのは変わらない。

「選択肢の一つとして、一定の評価はできる」と、各自治体の首長はJR東の提案を前向きにとらえている。今後は、地元負担をどれだけ減らすかなど、条件交渉に移る。

山田線は利用者が少ないとはいえ、学生の通学など地元住民の重要な足になっている。三陸鉄道はJR東よりも運賃が割高なため、移管後に運賃が上昇する懸念もある。復旧だけではなく、利用者増や利便性向上の方策も含めた、より深い議論が求められている。

週刊東洋経済2014年2月22日号〈2月17日発売〉 核心リポート02)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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