日銀が「意味不明ガイダンス」を出した理由 なぜ黒田総裁は全く動かなかったのか?

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しかも、そのフォワードガイダンスの見直しは、かなり異例なもので、現状の長短金利を維持ではなく、これよりも同じか低い状態を維持するという踏み込んだものであり、さらに、将来のコミットメントの時期を「少なくとも2020年の春ごろまで」から、「“物価安定の目標”に向けたモメンタムが損なわれるおそれに注意が必要な間」という、極めて曖昧な表現に変えた。

よく言えば、2020年春よりは先だ、ということが明確にはなったが、コミットメントという強い意志、それを具体的に示すことがコミットメントの強さのはずだが、極めて曖昧で主観的な判断が必要で、悪く言えば、非常に弱いコミットメントであり、市場の解釈が揺れ動けば、金融市場は混乱し、コミットメントの意味を成さない可能性もある、という最悪のものとなった。

日銀側の気持ちとしては、無期限に近い意味があると受け止めてもらいたかったのだろうが、今は、市場は和らいだムードだから緩い表現で許されるが、状況が悪くなれば、批判が集中し、日銀への催促相場となろう。

私個人の反省会、いや次の日銀の動きへの予想のガイダンスとしては、今回の「曖昧なコミットメント」は、次にこれを明確にする、という手段を残した苦肉の策と解釈する。すなわち、もう1回、フォワードガイダンスの見直し、というカードを切ることができるようにしておいたのだ。次は、明確な時期、あるいは明確な指標を設定することにより、動いた、何か日銀がした、というアリバイ作りをもう一度できるようにしておいたのだ。

「4つの緩和手段のどれもが×」がはっきりした

すなわち、今回、日銀が緩和拡大の措置を取らなかった、何も動かなかった、ということで必ず動くはずだ、という私の予想が外れた理由は、日銀の最大の動きがフォワードガイダンスの見直し以外にもはや残っていない、ということである。

つまり、日銀は4つの緩和手段があり、どれも経済、市場に良くないから、どれも取れないが何かやるとすれば、という仮定は間違いで、やはり、どれも取れない、というのが結論であることがはっきりしたのだ。日銀の現在の唯一できることはフォワードガイダンスの見直しだけであり、だから、次がなくなると完全に詰んでしまうため、もう1回フォワードガイダンスの見直しという手を残しておくための、意味不明の「曖昧なガイダンス」というのが今回行える最大の動きだったのだ。

日銀は詰んでしまった、ということが感想戦の結果、はっきりしたのだ。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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