大事故の危険も、鉄道「運転士のミス」どう防ぐ? 自動運転でも過渡期には落とし穴がある

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ほかにも睡眠時無呼吸症候群による無意識状態が引き起こす誤通過事故も多く発生している。運転士は事前の検査受診により、異常がない場合にのみ乗務することが義務付けられているが、発生するタイミングは個人差があるため、検査後に発覚することも少なくない。

これらの無意識状態によるブレーキ操作遅れを防ぐためにEB装置(1分間電車の操作を行わなかった場合に非常ブレーキが自動で起動するもの)が取り付けられている場合も多いが、駅に停車する直前に無意識状態になっては手遅れとなる。

また、考えごとや勘違い・錯覚も無意識的に発生してしまうことが少なくない。考えごとについては職場や家庭内での悩みなど、種類はさまざまであるが、どれも心配ごとの場合が多く、無意識のうちに頭の中で考えを巡らせてしまい、運転に集中していない状況になる。勘違い・錯覚は、高架区間などの景色が似ている駅で発生しがちで、通過駅だと無意識に思い込んでしまうのだ。

「面倒くさい」がミスを誘発

ヒューマンエラーを引き起こすもう1つの要因は、「バイオレーション」の存在である。運転士のミスを防ぐためにさまざまな規則が定められているが、その規則を知っているにもかかわらず、意図的に違反をしてしまう状態がバイオレーションである。

有名なバイオレーションによる事故の例として、1999年に発生した「東海村JCO臨界事故」が挙げられる。作業の手間を省くという理由で、安全防止のためのマニュアルに反した作業を行っていたことが大きな事故につながったのだ。

列車の運転士の場合、駅停車前に停車・通過の確認を指差し・喚呼にて行うことで、次の駅に停車すべきかどうかを改めて確認することが一般的である。バイオレーションとの関係性が非常に強く、指差し・喚呼を確実に行っていれば未然に防ぐことができる可能性も高くなる。

しかし、日々の業務をこなすにつれて、どうしても危険の軽視・慣れが生まれる。同時に、「楽をしたい」「面倒くさい」という気持ちも生まれ、半ば意図的に確認作業を怠ってしまうのだ。

10月23日付の「元運転士が明かす『非常ブレーキ』の心理状態」で、鉄道業界の減点方式の評価について述べた。つまり乗務員にとってはミスをしないことがゼロ地点であり、ミスを積み重ねるとマイナス評価になる減点方式の評価では、今回のような停車駅を誤って通過することは大きな減点対象になる。

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