「進化狙い、大切な技術は外へ」―日産の挑戦 クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(3)

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しかし、言うだけなら簡単だ。問題は、「人の動きや体温を追尾するセンサー」を「人の体調をモニタリングするセンサーシステム」にまで高めるため、「異なる用途を見つけ出す力」だろう。また、もしそうした用途を見つけ出したとしても、日本企業が「技術で勝ち続ける」ほどの強さを持つためには、どうしたらよいのだろう。

「突き抜ける」ために必要なのは、「強い行動力」

ある技術の新規の用途を見つけだす場合、そのカギとなるのは、

1.技術そのものに特長があること

2.用途の仮説を多く作ること

3.より多くの仮説検証を繰り返すこと

の3つだ。

業界で上位のシェアを占める製品の研究開発を10~20年と継続して行ってきた日本企業には、他の用途で高い優位性を示すことができる技術がいくつもある。これは、新興国企業にはない、日本の最大の強みだ。

また、世界的に見て、日本ほど輸送機器から電子機器、食品や消費財から材料と、あらゆる産業において、数千億円から数兆円規模の企業が数多く存在している国はない。しかも、もともとあった技術を後追いし低価格で勝負するのではなく、先進的な製品を製造する企業が多い。また、必要な技術を全て自前では開発しきれなくなり、多くの企業は社外に技術を求める「オープン・イノベーション」に積極的になっている。つまり、自社の技術を高めるために別の新しい用途を見つける上で、この上なく好都合なのだ。

多くの日本企業は新興国に比べ、そもそも磨き甲斐のある優れた技術を数多く持っているし、技術を磨くための別の用途も見つけやすい環境にいる。それでも新しい用途を見つけられないとすると、自社に閉じこもって異業種のお客様の現場のニーズを知らずにいる、研究者や開発者の動き方の問題だ。

「技術を異なる分野や用途で何回も練磨し、いろんなものに使っていくと、初めてこれが基幹技術になる。初めから基幹技術を開発するための研究というのは、やるべきではない」。この言葉は、第1回でもご紹介した日東電工のCTO、表氏の言葉だが、私がこれまで会った多くのR&Dのトップもこの言葉に共感している。

それならば、実践あるのみだ。日本企業が次世代の技術で継続的優位を築くネックは、行動力だけなのだから。

諏訪 暁彦 ナインシグマ・ジャパン社長

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すわ あきひこ

すわ あきひこ 株式会社ナインシグマ・ジャパン 代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学 材料工学部修了。 マッキンゼー、日本総合研究所を経て、2006年に世界中から優れた技術提案やベンチャー情報を集め紹介する、技術仲介会社「ナインシグマ・ジャパン」を設立し、代表取締役社長に就任。これまで100社以上の国内企業において500件以上の技術マッチングのプロジェクトを実施。技術者交流サイト「テクロス」(tecross.jp)、優秀な大学生に仕事を依頼できる「ジョブユニ」(jobuni.jp)を運営。楽しみながら技術交流やモノづくりの魅力を伝える「Growクレイ」「テクロス~未来を創ろう!~」を開発。「研究開発TOPとの対談」を連載中。

 

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