「進化狙い、大切な技術は外へ」―日産の挑戦 クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(3)

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クルマと「別の用途」で展開する、本当の意味とは?

クルマには、極寒の北極圏から灼熱の砂漠まで、幅広い温度帯の中で、激しい振動に耐えながら、走行距離数十万kmも機能し続ける、といったような強い耐久性が必要だ。そのため、自動車部品に求められる要求性能は非常に高く、実は、他の用途でも十分に使えることが多い。

しかし、性能が高い分、コストは高くなりがちで、コスト要求の厳しいクルマに搭載できるレベルにまでコストを引き下げるのは容易ではない。そこで、日産自動車が行った戦略はこうだ。

まず、クルマほど要求性能が高くない、「別の用途」で先に技術を実用化する。そうして開発投資を回収しながら、もともと狙っていたパフォーマンスを安定的に出すためのヒントや、歩留まりの向上、設計の最適化などを図るのだ。いったん異なる用途で実用化するとなると、一見遠回りのようにも見える。だが、その課程で不具合を見つけ、機能をより向上させることができれば、コツコツ純粋に研究開発を進めるよりも、目標はぐっと間近になり、結局は実用化までの道のりも短縮できるのだ。

例えば、スーパーモーターは、回転数の厳密な制御や、ロボットアームなど宇宙開発用機械での活躍が期待されている。これらの用途で技術が磨かれれば、将来のクルマでの活用の道も開けるかもしれない。

このほかにも、主要部品ではないが、同社は傷を自己修復する「スクラッチシールド」というクルマのコーティング技術も、こうした発想にもとづいてすでに外部へ出している。携帯電話のケースに応用する技術として、NTTドコモにライセンスしたのは、これまで自分たちのクルマでも使用したことのない、「より高性能の進化型」だ。塗料として他の用途の要求に応えていくことで、最終的にはクルマに使う際の性能アップや、効率的な生産技術によってコストダウンできることを期待している。

進化を狙い、あえて技術を外に出す

開発の現場においては、昔から技術を製品として実用化できず陳腐化させてしまうことが少なくないなか、こうした動きは戦略的で実に有効だ。

実は、市場で求められる要求レベルが高いため、開発した技術が日の目を見ないという悲劇を招いているのは自動車だけでない。それは電器も同様だ。

例えば、エアコンは、効率的なコンプレッサーや熱交換機だけでなく、フィルターのお掃除ロボットから、人の状態をモニタリングするセンサーシステム、そして、省エネ運転をするアルゴリズムにいたるまで、必要とされる技術は多岐にわたり、求められる性能も格段に高度になっている。

その中のセンサーを例に見ると、「人の体調をモニタリングするセンサーシステムを実現せよ」と言われると、技術的にかなり敷居が高い。しかし、まず技術的にはそれほど高度ではない「人の動きや体温を追尾するセンサー」を開発し、いったんおもちゃなどの別の用途に展開することで、技術力を今以上に高めることができれば、結果的にエアコンへの導入のタイミングも早まり、質もさらに向上する。

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