トランプ大統領の弾劾調査は新次元へ進んだ 下院弾劾は確実、上院も裁判実施は不可避に

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トランプ政権はテイラー氏などの証言の信ぴょう性について疑問を投げかけている。ホワイトハウスのステファニー・グリシャム報道官はテイラー氏の証言直後に声明文で「選挙で選ばれていない過激な官僚が憲法に対して宣戦布告している」とコメントした。

だが、半世紀にもわたってアメリカに奉仕してきたテイラー氏を共和党が攻撃するのは難しい。彼はウエストポイント陸軍士官学校出身でベトナム戦争に従軍し、共和党と民主党の大統領に仕え、2006~2009年にも共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領に任命されてウクライナ大使を務めた。

経歴からもアメリカへの忠誠心が高いことは明らかなテイラー氏が、いずれ一般公開される公聴会で証言を行えば、国民が信用し、大統領の弾劾・罷免に対する共和党支持者や無党派層などの考えにも影響を及ぼす可能性が残されている。一般公開となれば、共和党はこれまでのように弾劾のプロセスについて批判ができなくなり、証言者そして証言内容に焦点を移さざるをえない。

さらなる証拠が出るのか、トランプ氏が逃げ切るのか

また、テイラー氏の証言で、ウクライナ疑惑における大統領側近を含むさまざまな関係者が明らかとなった。今後、それら関係者からも下院民主党が証言を入手できれば、大統領の関与について確固たる証拠が判明し、国民の考えに影響を与える可能性もあろう。

つまり、1973年のウォーターゲート事件に関わる上院公聴会で、アレキサンダー・バターフィールド大統領副補佐官がホワイトハウスの録音テープの存在を明かした時のような事態が起きるかどうか、注目される。

弾劾・罷免の成否は最終的には議会の政治的な判断に委ねられる。したがって、今後は、トランプ氏が「見返り」を要求した事実について、国民がどう捉えるかがカギを握る。トランプ氏の側からすれば、国民をどのように説得できるかが、進退を左右するだろう。

下院では11月末の感謝祭休暇前に弾劾、そして上院では年末から年始あたりまでに弾劾裁判を終えるといったスケジュールが浮上している。民主党が弾劾の対象を広範囲にした場合はより時間を要する可能性もある。2020年2月には大統領選予備選が始まり、時間の経過とともに、国民の大統領弾劾・罷免への関心が薄まっていくだろう。トランプ大統領を引きずり下ろそうとする民主党は、有権者に対する情報戦に加え、時間との戦いに挑むこととなる。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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