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為替リスクに対応できる知識や技術を加えることで、日本企業はさらに強くなれる

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日本企業の海外進出が相次いでいる。近年は、アジアでの拠点開設やクロスボーダーM&Aが目立つほか、かねて多かった製造業ばかりでなく、小売業やサービス業の活躍も目立つ。こうした経営環境の変化を受け、多くの企業の間で外国為替取引の重要性が増している。為替取引の巧拙が決算に与えるインパクトは大きく、海外での売上比率が高くなればなるほど、為替リスクを巧みにコントロールしなければならない。独立行政法人経済産業研究所において、日本企業の為替リスク管理についての調査・研究を行う横浜国立大学教授の佐藤清隆氏に、企業経営の外国為替取引の現状を聞くとともに、企業の外国為替取引をサポートする金融機関の取り組みを紹介する。
横浜国立大学 国際社会科学研究院・経済学部教授
佐藤 清隆(さとう きよたか)
1968年生まれ。横浜国立大学卒業。東京大学博士(経済学)。公益財団法人国際東アジア研究センター研究員などを経て現職。専門は国際金融。独立行政法人経済産業研究所において、日本企業の為替リスク管理についての調査・研究も行っている

―― 最近の数年間で円相場は歴史的な円高水準から一転して大幅な円安に転じるなど、大きく変動しています。日本企業にとって外国為替取引や為替相場はどのような意味があるのでしょうか。

佐藤 外国為替取引とは異なる通貨の交換のことです。外国為替相場はそれらの通貨の交換比率を指します。日本企業が輸出や輸入など国際的な取引をするときに、外国為替相場の変動が問題になります。

たとえば、日本企業が米国向けに財を輸出する場合、一般的に米ドル建てで契約が結ばれます。米ドルで輸出価格が固定され、輸出企業はそのときの為替相場や将来の予想に基づいて輸出・販売計画を立てます。もし想定した水準を超えて為替相場が変動すれば、輸出による円建ての受取額が大きく変動し、差損や差益が発生します。

実際のビジネスでは、この為替変動のリスクを輸出企業と輸入企業のどちらが負担するかが問題となります。日本企業が米ドル建てで契約を結んだ場合、差損であれ差益であれ、為替リスクを受け入れざるを得ません。先物取引によってあらかじめドル売り・円買い契約をするなど、為替リスクヘッジをいかに行うかが、企業にとって重要な戦略課題となります。

―― 近年、日本企業はグローバルな生産・販売活動を積極的に拡大しています。日本企業にとって、実際に為替変動は経営にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

佐藤 興味深いデータがあります。日本銀行は輸出・輸入の物価指数データを円ベースと契約通貨ベースで公表しています。契約通貨ベースの輸出物価は、企業がどの通貨で契約して輸出価格を設定しているかを示してくれます。円の対米ドル相場は2008年のリーマンショック直前まで1ドル=110円前後でしたが、その後急速に円高が進み、11年から12年には1ドル=70円台という歴史的な円高水準を経験しました。また、12年末からは急速に円安に転じ、再び100円台に戻って現在に至っています。注目すべきは、これだけ大きな為替変動にもかかわらず、契約通貨ベースの輸出価格の水準がほとんど変わっていない点です。日本企業が海外市場で厳しい販売競争を行っている場合、円高が進んでも容易に現地通貨建ての輸出価格を引き上げることができません。他方で、現在の円安局面でも契約通貨ベースの輸出価格の水準はほとんど変わっていません。契約通貨ベースの輸出価格が変わらなければ、円安による為替差益が発生します。13年から日本の輸出企業の収益が改善し、株価が上昇した主な理由はここにあります。

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日本の輸出物価指数と円ドル相場の指数化グラフ

為替リスクへの対応も変化しています。活発な海外展開を行う日本の大企業の輸出相手は自社の海外現地法人です。海外の顧客向けに直接輸出するのではなく、一度自社の現地法人である販売会社に輸出し、同現地法人が現地市場に販売しています。自社の現地法人との取引ですから、為替リスクを現地法人に押し付ける行動をとりません。グループ全体で見てどのような契約通貨選択と輸出価格設定が効率的かという観点から、本社企業が世界中のグループ企業の為替リスクを一括して管理し、集中的に為替の決済を行う動きが増えています。

他方で、中小企業の多くは自社と関係のない海外企業向けに輸出しています。取引相手との間でどちらが為替リスクを負担するかという問題を避けることはできません。自社にとって適正な為替リスク管理とヘッジ手法の選択が重要となります。非常に競争力のある製品を輸出する場合は、たとえ中小企業であっても、円建てで契約し、為替リスクを輸入相手に負担させることも可能です。日本企業が輸出競争力の高い財を生産することは、為替リスク回避の観点からも重要です。

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