大不況下の世界 改訂増補版1929−1939 チャールズ・P・キンドルバーガー著/石崎昭彦、木村一朗訳 ■ザ・パニック 1907年金融恐慌の真相 ロバート・F・ブルナー、ショーン・D・カー著/雨宮寛、今井章子訳 ~理論による割り切りでない叙述的歴史の意義を再発見

大不況下の世界 改訂増補版1929−1939 チャールズ・P・キンドルバーガー著/石崎昭彦、木村一朗訳 ■ザ・パニック 1907年金融恐慌の真相 ロバート・F・ブルナー、ショーン・D・カー著/雨宮寛、今井章子訳 ~理論による割り切りでない叙述的歴史の意義を再発見

評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授

 リーマン・ブラザーズ破綻からほぼ1年が経過し、最悪の時期は過ぎ去ったかに見える。先進国で長らく退治されたかに見えた金融危機の発生は、過去のそれへの関心をひどく刺激することになった。

そうした過去として、必ず参照されるのは大不況である。『大不況下の世界』は名著の改訂版である。著者は国際経済システムの潜在的な不安定性を強調する。英国に代わって米国が国際的流動性の供給、戦時賠償の解決などで国際経済システム安定化に積極的な役割を果たさなかったことに、大不況の構造的要因を求める。

本書によって米国内に限定されがちだったそれまでの大不況研究は相貌を一新した。現在の研究水準からすれば、金本位制の役割など修正すべきところがないわけではない。しかし、世界大不況のグローバル・ヒストリーへの先駆的試みとして、本書は現代の古典としての不朽の位置を占めるだろう。

最近注目されているのは、米国の1907年恐慌である。『ザ・パニック』は、この「100年前の金融恐慌」を詳細に叙述する。それは大不況以前には最悪の金融恐慌であり、結局、米連邦準備制度理事会設立のきっかけとなったものだ。ここで描かれているのは、中央銀行なき金融制度の脆弱性だ。危機にあって個々の金融機関は貸し出しを絞り、現金を保蔵しようとする。しかし、それでは何よりも現金を欲している顧客が干上がってしまう。誰かが公的に活動しないといけない。それをしたのは当時70歳だったJ・ピアポント・モルガンだった。

両者に共通するのは、単一の経済理論による割り切りではなく、細部への注目だ。モデルを無視するわけではないものの、叙述的歴史の意義を再発見している。第二に国際連関の重視だ。1907年の危機の場合も、その原因の一つには英国の中央銀行の金融引き締めがあった。そして第三にリーダーシップの重要性である。キンドルバーガーは米国政府の失敗、ブルナーらはピアポント・モルガンの成功と、結果は違うものの、危機にあって決断は不可欠である。

金融危機は今後も再発しうる。今後に備えるためにも、これらの歴史書に学ぶ意義は大きい。


大不況下の世界 改訂増補版1929−1939
岩波書店 7455円 384ページ
Charles P.Kindleberger
1910年生まれ。米ベンシルベニア大学卒、コロンビア大学で博士号取得。1948年からマサチューセッツ工科大学(MIT)に籍を置く。連邦準備制度理事会、ニューヨーク連銀、国際決済銀行、国務省などに勤務。同大学名誉教授を経て、2003年没。

  


ザ・パニック 1907年金融恐慌の真相
東洋経済新報社 2520円 360ページ
Robert F.Bruner
米バージニア大学ダーデン経営大学院学長。企業金融、M&A、新興国投資などで研究論文。エール大学、ハーバード大学ビジネススクール卒。
Sean D.Carr
米バージニア大学ダーデン経営大学院バッテン研究所ディレクター。ジャーナリスト、プロデューサーを経る。コロンビア大学大学院修士課程修了。

    

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