ミシュラン店「うな富士」が目指すおもてなし 身障者と介助者だけが入店できる新店舗

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水野さんはこれまでどおり店に出て、弟子たちの指導にあたっているので、完全にデマである。それが証明されたのが2019年5月。「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019」でビブグルマンに選ばれたのだ。

「私の両親は広島の田舎で食堂を営んでいました。高齢となり、10年ほど前に常連のお客さんたちに惜しまれながら廃業しました。中華そばが名物で、今でも帰郷するたびに多くの方から『あの味が忘れられない』と言われて心が痛みました。

水野さんから事業承継をさせていただくことになり、ミシュランにも選ばれました。『うな富士』の味を守るだけではなく、今後100年、200年と続くために全力を尽くしていきます」

席数12席の身障者用フロアもオープン

さらに2019年10月、店の1軒隣に「うな富士 縁(ゆかり)」がオープンした。混雑緩和のために席数を増やしたのか? それとも、VIP客用の個室かと思いきや、身障者用のフロアだという。

身障者専用フロア「縁(ゆかり)」。全12席でテーブルの間隔もゆったりしている(筆者撮影)

岡田さんによると、うな富士には以前から身障者からの問い合わせがあったが、テーブルの間隔が狭く、車椅子での入店が困難だったため、泣く泣く断ることもあったとか。1軒隣が空くという話を聞いたのは2019年8月。もちろん、新しい業態の店をオープンさせるとか待合室を作るという案もあったが、今の店にないものを考えたとき、身障者用のフロアにたどり着いた。

「商売は、愛されてなんぼと言われますが、店が客を愛してなんぼだと私は思うんです。多くの方に来店していただいて喜んでもらいたい。ただ、それだけなんです」

席数は12席。母屋のうな富士は30席なので、いかにゆったりとした造りになっているかがわかるだろう。もちろん、バリアフリー設計で、トイレも車椅子に乗ったまま出入りできる。

さらに各テーブルには、「皆様がお気軽に楽しく、ゆったりとお食事ができるように……たとえ、散らかして汚しても、お気になさらないでください。私ども従業員一同が片づけますので、ご安心のうえ、お食事をお召し上がりください。従業員一同」と書かれたプレートが設置してあった。

「縁のコンセプトは、このメッセージに尽きます。バリアフリーにはなっていますが、実際に使ってみると、不具合も出てくると思います。食器なども見直さないといけないかもしれません。お客さんから意見を聞きながら改善していき、身障者の方でも気兼ねなく食事を楽しんでいただける店を目指していきます」

「うな富士 縁」の利用は、原則として要予約で身障者と介助者のみ。予約が入っていない場合、一般客も利用できる。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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