医師との会話がどうしても「ズレまくる」理由 「合併症」「確率」などの言葉にご用心

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「治療」が果たす目的として、患者さんは「症状がよくなる」と思っていて、医者は「症状を悪化させない」と思っており、お互いに目標がまったく違っているのです。

似たような形で「正常値」というのも「本来あるべき好ましい数値」ではありません。採血して腎機能の値が異常値になったからといって治療の対象となる というわけでもないのです。あくまで平均的な人たちの数値というだけです。だから 異常値が出た時点で即治療とはならず、治療しないこともあります。

「標準治療」というのは「最新治療ではなく、一般医が従来から行う医療」という意味ではありません。現在標準的に安全が確認されている治療ということです。

「最新医療」というのは、「新しくて優れた医療」ではありません。 「新しいだけで、まだいいか悪いか確定していない治療」ということです。

ですがテレビなどのメディアは、最新治療がいいものだというような取り扱い方をする場合があります。最新治療が出ると、学会では最初に「この治療法はすばらしい」という報告が1~3年ぐらい飛び交います。これはニュースになります。

しかし1~3年後、「この治療法は、こんな問題が見つかった」という報告が出ることもあります。しかし、このことはニュースにならないことが多いです。ですから一般の人はニュースを見ていると、「最新治療はよさそうだ」という情報しか伝えられていないのです。欠点が見つかった治療の多くは、医学の世界からはいつの間にか消えますが。

医者が「合併症」だと言う背景

最もすれ違いが生じる言葉が「合併症」かもしれません。「ミス」と患者さんが思うことを医者は「これは合併症です」と説明します。これでは、納得できるはずがありません。

例えば「縫合不全」とは、うまく縫えていないということです。腸の手術でこの縫合不全が起きると、感染症が起きたり炎症が強くなったりすることがあり、ひどいと命にかかわることもあります。ですから、うまく縫えていないというのは、普通は「ミス・失敗」と思われがちですが、医者は「合併症」と言います。

「合併症」という言葉がややこしいのです。「合併症」には2つ意味があります。

1つは、もともと患っている病気に、別の病気が併発すること。例えば糖尿病の合併症として糖尿病腎症があり、腎臓も悪くなって透析が必要になる場合があります。「合併症」としては、こちらのほうが有名です。

もう1つの「合併症」は、「手術や治療・検査に伴って起きることがある病気・状態」です。あまりこちらは知られていません。そのため、ミスと思われるときに「合併症です」と言われると、医者が言い訳して逃げているようにしか感じません。

患者さんやご家族は、医者がミスをしでかしたんだろうと思うかもしれません。でも、ミスではないのです。

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