円高“容認”で88円台に、試される新政権の市場対話力

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 藤井財務相にしてみれば、おそらく「当たり前のことを言っただけ」(中央三井信託銀行の北倉克憲チーフディーラー)。米ピッツバーグで開かれた20カ国・地域(G20)の首脳会議では世界各国の経済収支の不均衡が議題に上ったが、その是正に通貨安で対応するのは一種の「近隣窮乏化策」。自国の輸出企業を中心とした競争力拡大を優先させれば、国家間の関係悪化につながりかねないところ。実際、同財務相の発言内容を疑問視する声は、市場関係者からさほど聞かれない。

一方で、英イングランド銀行のキング総裁は「これまでのポンド下落は経済のリバランスに役立つ」と述べるなど、自国の通貨安を容認。主要国の通貨当局の姿勢には「日本と温度差がある」(中央三井信託銀行の北倉氏)。他国との微妙な認識のズレに対して敏感に反応した円相場は、新政権の市場対話力を瀬踏みしているようにも見える。

85円台前半へ上昇も

その後、藤井財務相は「介入もありうる」という趣旨の発言をするとともに、「円高是認」との見方も否定。しかし今後、円買いの勢いが鈍っても、ドルの売られやすい状況は続く公算が大きい。米国の金融緩和策に当面変更はないとみられるからだ。

このため、円は対ドルで底堅く推移しそう。上値メドは今年1月につけた87円10銭だが、「年内に85円台前半まで円高が進行してもおかしくはない」(みずほコーポレート銀行の兼平修一国際為替部次長)との指摘もある。

そうなると当然、企業業績にも下振れの不安が付きまとう。野村証券が金融を除く国内の主要348社対象に、為替の変動が2009年度経常利益予想へ及ぼす影響を算出したところ、対ドルでは1円円高で1・6%、対ユーロでは同0・6%、それぞれ利益を押し下げるとの結果が出た。

業績見通しの前提となる為替レートを1ドル=90円超の円高に設定した企業は、ほぼ皆無。同水準が定着すれば、世界的な景気持ち直しを背景にした業績の上方修正期待も腰砕けになりかねない。
(松崎泰弘 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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