セパージュ時代の到来(1)前夜:パリの試飲会《ワイン片手に経営論》第15回

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■アメリカでも波紋広がる

 一位になったアメリカ・ワインは、白が「シャトー・モンテレーナ 1973年」、赤が「スタッグス・リープ 1973年」でした。シャトー・モンテレーナもスタッグス・リープも、カリフォルニア州のナパ・バレーにあるワイナリーです。

 試飲会の様子が、とても詳しく分っているのは、その場にタイム誌の記者、ジョージ・M・テイパー氏が居合わせていたからです。もし、この記者がいなかったら、この事件は、事実として認知されずに、人々の記憶から消え去っていたかもしれません。更には、現在起きているワイン業界の胎動の到来も、もっと遅くなっていたかもしれません。

 この試飲会の記事が掲載されているタイム誌は、1976年6月7日にニューヨークのニュース・スタンドに並びました(場所によっては、5月31日)。記事としては、「ひっそり(*1)」という感じだったようですが、その後、徐々に口コミで広がり、さらに、有力なワイン・ライターが執筆するコラムに取り上げられ、アメリカのワイン消費者に衝撃を与えたのでした。

 タイム誌の記事が出た翌日、ニューヨークのワイン・ショップで、すぐに異例なことが起きました。午前中の段階で、毎月、数ケースしか出ない高級カリフォルニア・ワインが、売り切れ寸前になったのです。店長が、すぐに客の一人に何があったのか聞いたところ、タイム誌の記事のことを教えてくれたそうです。
 シャトー・モンテレーナのオーナー、ジム・バーレットは、丁度そのとき、フランス・ボルドーで、ワイナリーを見学旅行中でした。試飲会の翌日、タイム誌のテイパー記者は、バーレット氏の居場所を突き止め、名門ワイナリー「シャトー・ラスコンブ」に電話をかけています。バーレット氏は、昼食前の食前酒にシャンパンを飲んでいたところで、突然の電話に対し、「悪い知らせ」と思ったようです。電話の後、彼は連れ立っていた妻に「心配したことは起きていない」と伝えたとのこと。とても静かな反応だったようですが、内心は興奮していたのでしょう。パリの試飲会の出来事は、すぐにバーレット氏から、カリフォルニアのワイナリーのオーナーたちに、伝えられていきました。

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