震災復興事業が被災者を脅かす 土地区画整理、河川堤防建設で家を追われる人々

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近所に住む佐々木勝男さん(71)の自宅も堤防の建設に伴い、道路予定地になった。佐々木さんによれば、「堤防建設に伴う付け替え道路の計画は3度も見直しになり、そのたびに右往左往させられた」という。

「当初の説明では道路建設の予定地から外れていたが、計画の見直しで自宅の一部に道路がかかるようになり、次は自宅がまるまる取られることになった。そして最後になって土地の一部が残るという話になった。これで終わりかと思ったら、今度は残った土地もすべて買い取らせてくれと言われた」(佐々木さん)。

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自宅の移転を迫られた佐々木勝男さん

「それでも僕は恵まれているほう」と佐々木さんは話す。というのも、たまたま隣に土地を所有していたためだ。現在、佐々木さんは新居を建築中で3月中には完成の予定だ。自宅に併設していた障害者の交流施設を含めて移転の対象となり、「面積は今までの7割に狭まる。家財道具は置き場がないのでまとめて廃棄処分した」(佐々木さん)。

それでも国への協力を惜しまなかったのは、市役所で建設部長を務めたこともあり、堤防建設の必要性を理解していたからだという。

その佐々木さんですら、「計画が二転三転四転もするのは理解できない。その説明もきちんとされていない。一般の住民に、用地買収に伴う登記や税の申告などを、何の手助けもなしにやらせるのはあまりにも酷だ」と感じている。

公共用地補償基準がはらむ問題

国土交通省側は「2011年11月~2013年7月までに各町内会単位で140回以上の説明会を開催するなど、堤防の整備については丁寧に説明してきた」(東北地方整備局の常山修治河川調査官)というが、住民の意識とは大きな隔たりがある。

常山氏によれば、「旧北上川の堤防建設・拡幅工事に伴い、移転対象となる家屋は約230戸、対象者は800人程度」にのぼる。対象となる人の中には、津波被害を受けた自宅を修理した後になって、立ち退きを求められた人も少なくないと見られる。

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