中国・全人代開幕、4兆元景気刺激策をめぐる議論の行方--仲大軍・北京大軍経済観察研究中心代表(中国エコノミスト)

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--いちどは不要不急とされたプロジェクトが復活するようでは、結果的にそれが不良債権化する懸念がありますね。

4兆元計画の財源には銀行融資もかなり含まれるが、不採算のプロジェクトが増えた結果、銀行経営に影響することを多くの人が心配している。現段階でどの案件にリスクがあるのか、いずれが不良なプロジェクトなのか、区別するのは非常に難しい。そうした案件が出てくる背景には地方政府と特定企業の利害が密接に結びついており、彼らはなんとしても実行に移したいと考えている。

日本には内需拡大策に関連するプロジェクトに、積極的に関わろうとしている企業が多いようだが、少し慎重になったほうがいいのではないか。実際に機能するのか、資金は回収できるのかなど投資効果をよく見た方がよい。これまでのようにはいかなくなる可能性がある。政府の言うことを聞くばかりでなく、投資効果のほどを自ら現地で調査し、検証するべきだ。

--そういう案件にブレーキをかけるうえで、全人代は機能するのでしょうか。

さまざまな立場の代表が議論に加わることで、それぞれのプロジェクトの性格がこれまでよりは明らかになるだろう。しかし、全人代の代表は基本的に官僚や業界の利益代表で、社会のエリート層に属する人々だ。彼らが本当の意味で議案に反対することはない。真っ正面からぶつかるような論争は期待できず、一定のサークルの中での議論にすぎない。実施が決まった案件については概容が公表されるだろうが、実行の段階ではかなり不透明な部分が残るはずだ。中国の政策決定過程は多様性もなく、民主的でもなく、公開もされていない。指導者層の内部の議論で決定をしていく。そういうものなのだ。

ちゅう・だいぐん●Zhong DaJun
民間シンクタンク「北京大軍経済観察研究中心」の代表。1952年、山東省済南生まれ。上海・復旦大学卒業後、国営新華社通信で経済関連を担当。2000年に「北京大軍経済観察研究中心」を設立。中国では数少ない民間エコノミストとして積極的に発言を続けている。新刊に『中国は世界恐慌にどこまで耐えられるか』(坂井臣之助訳、草思社)。

(写真:吉野純治 = 東洋経済オンライン)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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