米国の頂点に立つシェフ、B級料理を変える 米国ワインの聖地、ナパを有名にした男

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家庭料理への熱い視線

いわばスター・シェフ、セレブ・シェフの代表格であるそんなケラーだが、興味深いのは、彼が自分のトップクラスの方法論を真剣に一般の人々にも伝えようとすることである。ケラーが人々に料理の真髄を伝えようとするさまには、感動的なものすら感じることがある。それはこんなことだ。

まず、普通の人々向けに手を抜いていないこと。今や有名シェフは星の数ほどいて、テレビで自分の料理番組を持っていることも少なくない。料理が流行する昨今、みんながシェフの味を自宅で再現しようと思っている。シェフらは、本当は料理ができない人々のためにも、ごく簡単な料理を伝えてくれることがほとんどだ。

ケラーは、そんな番組こそ持っていないが、自身の料理本やたまに出てくるテレビ番組などで、彼の手法を垣間見ることができる。ところが、彼のレシピは決して簡単でないことも多いのだ。

たとえば彼の人気料理である、バターミルク漬けしたフライド・チキン。彼はこの万人好みの料理をまったく違うレベルへと押し上げた。ハーブやスパイスなど20種類近くもの材料を用い、漬け汁に沈ませたり、衣をつけた後も長時間寝かせたりしながら、ずいぶんと手間をかけるのだ。

だが、出来上がりはとてつもなく風味豊かな最高のフライド・チキンだ。そもそも、フライド・チキンなどというとても下級な料理を、ちょっと手間をかけることでここまでおいしくさせる技がすごい。それに、誰にでも大好きなB級な料理があるのだという、共犯意識のようなものまで感じさせる。そんな意味では、ケラーは優秀なコミュニケーターだろう。

チキンと同じように、卵やトマトなど、普通の食材をぐっとおいしく食べられるレシピも、彼の頭にはたくさん並んでいるようだ。

たかが塩こしょう、されど塩こしょう

反対に、拍子抜けするほど簡単なレシピを伝授することもある。その場合は、仕込みの大切さを延々と説く。これもまたチキンの例だが、丸ごとチキンのグリルがそうだ。

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