東大卒プロポーカープレイヤーの勝負哲学 日本人初のタイトル保持者が戦いのすべてを語る

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普段はほとんど緊張しないのですが、タイトルを獲ったときは、二晩、一睡もできませんでした。とにかく身体を休めなければ、と八時間ほど布団のなかで目をつぶっていましたが、とにかく次の日にどんなふうにプレイをしようかということをずっと考え続けてしまうんです。頭の中でプレイがぐるぐると回っていて、したくもないのにシミュレーションをし続けてしまう。緊張ではなく、興奮といったほうがいいかもしれません。

初日をチップ上位(72人中12位)で通過したときの晩はまったく眠れませんでした。2日目には断トツのトップで最終日に進んだため、また眠れなかった。ただ、初日の順位でさえそうだったので、2日目のトップの夜は「どうせまた興奮して眠れないんだろうなあ」と思っていました。予想どおり一睡もせずに翌日を迎え、タイトルを獲ったというわけなんです。

いまはまだ「一軍の代打」

ぼくがプロ契約を結んでいる「ポーカースターズ」というオンラインサイトは、ポーカーの世界では圧倒的な規模で、メジャーリーグでいったらヤンキースみたいなものです。ただ、プロ契約をしているとはいっても、「一軍のレギュラー」みたいな扱いではありません。契約プロは100人ちょっといますからね。野球でいうなら、ヤンキースの二軍の試合には毎回出してもらっていて、たまに一軍の代打で出してもらう、というような感じ。

だから、今後はもっと世界的にも有名なプレイヤーになりたいんですよね。いまのぼくのように、1つタイトルを獲っただけというプレイヤーなら、ごろごろいます。1回なら、「まぐれ」でもタイトルを獲れてしまうかもしれない。でも、複数回タイトルを獲得するというのは非常に難しい。だから、次に大きなポーカーの大会の何らかの競技で優勝するというのが目標になっていますね。

そのためにはとにかく、参加することが重要だと思っています。参加しないことにはタイトルは絶対に獲れませんから。だから、あちこちの世界大会をどんどん回っていきたい。大きな大会に参加するときには参加費が五万ドルなど、かなり高額になるため、参加するだけで名誉な大会もあるんです。まして、その大会で優勝することは非常に大きな名誉です。そうした大会に参加するためにもお金は欲しいな、という感じですね。それ以外の意味では、お金に対しての執着はほとんどありません。

ポーカーの世界での立ち位置を聞いた際には、「アジアの大会などではまぁ騒がれて、ポーカーファンに写真も撮られます。でも、ラスベガスのなかではそんなに露出しているほうではない」と冷静に語った木原氏。しかし、誰が世界一のプレイヤーかを尋ねたときには、「強さを測る代表的な指標は勝ちの絶対数に重きが置かれているため、厳密にいって誰が一番強いかのランキングとはイコールではありません」と丁寧に教えてくれたうえで、「それでも、『ビジネスの世界で頂点に立つ10人は誰か』という問いでいつも入ってくる人っていますよね。そういうプレイヤーをめざしています」。彼の静かな熱を帯びた語り口調が、非常に印象的だった。

(取材・構成:木村俊介)

『Voice』2014年2月号より)

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