東大卒プロポーカープレイヤーの勝負哲学 日本人初のタイトル保持者が戦いのすべてを語る

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いまの時代、何が生業であっても、生きていくだけなら何とでもなるというのがぼくの感覚です。東大で留年を3年、休学を3年して29歳で卒業したわけですが、その前も後も塾の講師として食いつなぎながら、3週間続くバックギャモンの国際大会に出場して世界各地を回ったこともあります。

故郷(北海道)の親は進路について何もいわなかったか、とはよく聞かれることですが、距離も離れていますし、経済的に独立していますからね。母親は電話などでポーカーやバックギャモンなどについて「やってほしくない」とはいうけれども、「やめなさい」という言い方はしませんでした。

ぼくにとって、海外のカジノでは合法だから後ろ暗いという意識は何もなく、大きな金銭のやりとりができるポーカーでの収入が増えていった。最初は簡単なバイト代以下の収入でしたが、「勝てている」「ゲームが楽しい」というのがずっと続いている感覚がぼくには大事でした。

その感覚のなかでゲームを続けているうちに、将棋、麻雀、バックギャモン、ポーカーの4つの時間配分が変わった。普段は夜中の0時から午前中まで、オンラインポーカーで練習をしています。おとといの晩は、ヨーロッパの時間帯に合わせたネット上の試合に出て、夜中の0時から夕方の5時まで約17時間もやっていました(笑)。プロとしてアメリカのポーカーサイト「ポーカースターズ」と契約しているので、プレイ時間のノルマはあるのですが、もともとそれ以上の時間をプレイしていたため、ほとんど気になることはありません。

中級者と上級者を分けるもの

現在は、ネットでポーカーをやる環境が整備されて数年ほどが経ちました。かつてのポーカーでは残らなかった、プレイヤーごとの「棋譜」(手順の記録)が見直せるようになって、上達のための勉強法がかなり整備され始めました。若い人も簡単に上達できる一方で、ある程度以上の上級者は同じレベルでひしめいている。ポーカーの研究がオンラインによって進んで、いわば「高速道路の先には大渋滞」といわれている将棋界と同じような状況にありますね。プレイの量をこなせるから、上達のスピードも速いけれど、ノウハウの共通項が多いから上級者同士の戦いは膠着状態にある。

木原直哉(プロポーカープレイヤー) 1981年、北海道生まれ。東京大学理学部卒業後、プロのポーカープレイヤーに。2012年、第42回世界ポーカー選手権大会(WSOP)にて、トーナメ ント「ポット・リミット・オマハ・シックス・ハンデッド」に参加し、日本人として初優勝。現在、世界最大のオンラインポーカーサイト「ポーカースターズ」 の専属プロとして活動中。

一般的には、ミスをしなくなれば中級者といえるでしょう。その時点で海外のカジノではまず負けません。スタンダードプレイ、「教科書レベル」を押さえるだけでそこまでは行けるという感覚です。カジノでは、ポーカーの基本的な考え方が必ずしも得意ではない人もプレイしていますからね。ここまでは量をこなせばとくに難しくもない。

ただ、「教科書プレイ」止まりでは上級者に勝てない。考えが見え透いてしまうからです。基本に忠実なぶん、上級者からすれば、どのように対応すればいいか、いつ降りて、いつブラフをかければいいかが丸わかり。ポーカーは勝っているときの利益をいかに最大化するかが問われる競技なので、その判断は重要なんです。上級者がブラフをかける。そこの裏を突く、裏の裏、さらにその裏の攻防……みたいな行動が必要になるのです。

そんな上級者同士の戦いでは、もう初級者や中級者のやるポーカーとは概念が変わってくるんですね。確率的な考え方によるプレイのウエートが上がる。

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