ホンダの社長交代、
非エンジン開発出身者が初登板

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ホンダの社長交代、非エンジン開発出身者が初登板

ホンダは、福井威夫社長が取締役相談役に退き、伊東孝紳(たかのぶ)専務・四輪事業本部長が社長に昇格する人事を決めた。6月の株主総会後に正式決定する。

未曾有の経済環境下でのバトンタッチに福井社長は「正直迷った」としながら、こう続けた。「企業の永続性には内部の人間、とりわけ経営陣の世代交代が非常に重要。厳しい時期の後の加速力を考えると、このタイミングでの交代はむしろよい」。

福井社長の伊東氏評は「一言で表現するなら“タフ”」。2輪好きに加え、学生時代に専攻した航空機の製作を夢見てホンダに入社した。1990年に発売したスポーツカー「NSX」をはじめ、車体設計を中心に4輪車の研究・開発に携わってきた。

米国駐在、本田技術研究所社長、鈴鹿製作所長といった豊富な経験に加え、根っからの“カーガイ”であることも決め手となった。「2輪車はホンダのカブから始まってSL125、XL250、ドリーム……浜松の会社のにも乗った。最初の4輪車はN360。この車には感激した。名古屋や広島、浜松の車にも乗って……数え上げたらきりがない」(伊東次期社長)。学生時代にラリーに熱中した福井社長も「ホンダの社長はやっぱり車や2輪車が好きでないとダメ」と言い切る。

初の“車体系出身者”

福井-伊東ラインは下馬評も一致するところの既定路線であり、一見、ノーサプライズに見える。だが実は、ホンダにとってエンジン開発部門以外の出身者をトップに据えるのは今回が初めてだ。

ホンダのルーツは自転車用補助エンジンの製造にある。トップは本田宗一郎氏に始まって長年、内燃機関(エンジン)系出身者が務めてきた。福井社長は米国マスキー法を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンの開発に携わり、その前の吉野浩行社長もCVCCに加えガスタービンエンジン研究で知られた。

だが次世代エコカーの開発には、従来のエンジンの枠を超えた発想が求められる。2月の発売以降、売れ行き好調な「新型インサイト」は、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドカー。こうした車を「毎年のように二の矢、三の矢と出していくことが重要」(福井社長)。その期待を背負う伊東次期社長も「環境性能に優れ、求めやすい価格の車はホンダの持ち場。(こうした商品を)いかに早く投入するかに尽きる」と語る。

F1撤退に続き“非内燃系出身者”を指導者に選んだホンダは、今後のクルマ造りの方向性をこれ以上なくはっきりと宣言した。

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(撮影:今井康一)

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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