だまされないための年金・医療・介護入門 鈴木亘著 ~あるべき姿と現実の乖離を解明

だまされないための年金・医療・介護入門 鈴木亘著 ~あるべき姿と現実の乖離を解明

評者 日本総合研究所主任研究員 西沢和彦

 社会保障制度改革は繰り返し叫ばれるものの、国民的合意形成の道筋は一向に見えてこない。むしろ混迷は深まるばかりである。背景の一つは、著者が言うように「厚生労働省の目に余る情報操作」の結果、そもそも制度の現実や問題点が国民に正確に認識されていないことがある。もう一つは、現行制度のうち歴史的経緯により歪められた部分までも理論的帰結であるかのように強弁する議論が、厚労省のみならず専門家の一部に存在することである。そうした専門家が多数派を占める審議会では議論の深化などもとより期待できない。本書は、こうした現状に風穴をあけるべく、書かれた一冊である。

厚労省の情報操作に対し、本書は一つひとつ独自のシミュレーションをもっていかにそれが事実と異なるかを証明していく。たとえば、2005年生まれ世代であっても4100万円の年金保険料負担(生涯)でその2・3倍の9500万円(同)もの給付を受けられるとの厚労省試算に対し、本書はむしろ2510万円の負担超過であることを示している。あるいは、04年の年金改正時の想定よりさらに少子高齢化が進む推計が公表された後もなお100年安心は揺るがないとする厚労省の試算に対しても、本書は60年度には年金積立金が枯渇してしまうことを示している。ここが本来議論の出発点だろう。

現行制度の解説も、理論的にあるべき姿と現実の乖離を解明するスタイルで進められ、明快である。本書が説くあるべき姿とは、第一に、社会保険もリスクへの備えとしての「保険の原則」に従うべきであるということ。第二に、少子高齢化が予見されるもと後世代に極力ツケを負わせないために、年金・医療・介護の財政方式を賦課方式から積立方式へ移行させるべきということだ。こうした観点からみると、現行制度が所得再分配まで行っていることは保険の原則を逸脱している。あるいは社会保障国民会議のように、いくら税か社会保険かと角をつき合わせたところで、賦課方式を前提にしている限り、ほとんど意味がない。著者の言うとおり、論点のすり替えでしかないだろう。

本書の魅力はそれだけではない。著者がこれまで行ってきた実証分析や政策形成に参画した際のエピソードなどもコラムとして盛り込まれ、読ませる構成となっている。たとえば介護保険において提供される介護サービスメニューと介護する家族のニーズのミスマッチがいかにその家族に負担感を与えているか、その考察と分析結果は非常に興味深く、著者の温かい眼差しを感じる。

すずき・わたる
学習院大学経済学部准教授。1970年生まれ。94年上智大学経済学部卒業後、日本銀行勤務。2000年大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。大阪大学社会経済研究所、日本経済研究センター、東京学芸大学等を経て、08年4月より現職。

東洋経済新報社 1995円 280ページ

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