ドラマ「Heaven?」に見る仏料理サービスの極意 フレンチのおもてなしメートル・ドテルとは

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歴史や格式ある一流店には、長きにわたり積み重ねられたサービス美学が存在する。とくにグラン・メゾンの場合、多くのサービススタッフを率いており、その中では役割分担が明確に決まっている。具体的に彼らの役割や仕事について見てみよう。もちろん、レストランにより異なるので、あくまでも一例だ。

さて、初めに席についてメニューを渡してくれるのは、メートル・ドテルだ。もともとは貴族の館の家老であったが、現在はレストランの接客サービス面における総責任者であり、レストランのスペシャリテ(名物料理)やお薦め料理を説明してオーダーをいただく。

また、食事中はつねにお客様に安心感と信用を与えリラックスしてもらい、お客様のリクエストが何かないか要求を察知するため、絶えず細心の注意の中でその小さな動きや雰囲気の変化や音にも気を配っている。

もっとも大切な役割は?

いちばんの役割はお客様の大事な時間を共有することだ。ゲスト同士の会話から記念日だとわかれば、デザートのお皿にメッセージを書き添えたり、ローソクを用意したりするなどのささやかなサプライズでお客様の笑顔を引き出す。

また、亡くなった方をしのぶ食事会であれば、ゲストに最大限寄り添い、その方の分のテーブル・セットを急遽準備して、好きだった飲み物やお料理を用意することもある。

メートル・ドテルの補佐役としてお客様に給仕するのが、シェフ・ド・ラン(エリア長)の役目となる。

厨房からテーブル手前のゲリドン(サービス・ワゴン)まで、お客様に必要な器財やお料理を運んだり、ゲリドンから下げたものを洗い場に運んだりするのはコミ・ド・ラン(サービス見習い)が担当する。あくまでも見習いのため、コミ・ド・ラン1人だけで、お客様に接することはない。

しかし、場合によってはメートル・ドテルの指示のもと、シェフ・ド・ランと共にお客様のテーブルにお料理を提供したり下げたりするときがある。1つのテーブルで同時に料理を提供する際や、クロッシュ・サービス(半円ドームに取っ手があるカバーを一斉にテーブルで取り上げる)を行う。

メートル・ドテルの仕事にデクパージュ(料理の切り分け)がある。見事な出来栄えのローストされた肉の塊や調理された丸ごとの魚をお客様に見せるプレゼンテーションをした後、客席の前に用意したゲリドンで切り分けや取り分けてお皿に美しくかつ平等に盛り付ける。そして、最後にソースをかけてテーブルにサービスする。

本来お料理は丸ごと調理したほうがおいしいとされており、だからこそ厨房では料理全体の80%を仕上げ、最後にメートル・ドテルが客席でデクパージュを行い100%のお料理を提供する。

また、デザートの場合には、相性のいいリキュールやブランデーなどでフランベ(デザートのフランベにおいては香り付けや演出効果のために火をつけアルコール分を飛ばす)をして仕上げる。

そのためにも、メートル・ドテルは手際のよさと同時にエレガントな立ち振る舞い、テクニック、その他あらゆる料理知識を持ち合わせていることが不可欠である。食材、調理方法、シェフの料理哲学をお客様に語るのは、シェフではなくメートル・ドテルだからだ。

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