進退両難に陥る不動産ファンド、迫り来るリファイナンス 

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私募ファンドを運営し、自社で開発等も手掛ける、ある上場不動産会社。自社勘定で保有する二十数物件を売却し、2008年終盤に返済期限が訪れる百数十億円の借入金を返済する--。だがこのシナリオは物件売却が滞り、大きく狂った。

関係者は、メガバンクから地銀まで、約10行との交渉に奔走。金利上昇など条件悪化はあったが、事実上、融資額を維持したまま1年の返済期限繰り延べが合意された。10億円前後の小規模物件で売却実績があったことが評価されたという。

レンダーが戦線を縮小 リファイナンスの困苦

現在の不動産業界各社の最大のハードルはリファイナンス(債務の借り換え)だ。これはファンドのノンリコースローン(非遡及型融資)、でも自社勘定のコーポレートローンでも変わりはない。流動性が枯渇する中、冒頭企業のように繰り延べが認められるのは極めて異例だろう。07年夏にサブプライム危機が顕在化し、それまでノンリコースローンレンダー(貸し手)だった外資系投資銀行が撤退もしくは戦線を大幅に縮小。一方、邦銀も昨年後半から貸出残高の圧縮姿勢を鮮明にし、ファンド等のデット(負債)調達は行き詰まりつつある。

2月中旬までに主要ファンド各社が決算を発表したが、いずれも最終赤字と、この間の苦境を物語る。業界最有力2社と言われるダヴィンチ・ホールディングス、ケネディクスとも、決算短信に継続企業の前提に対する疑義を付けられた。両者首脳が口にするのはリファイナンスや金融情勢の厳しさだ。

ダヴィンチの金子修社長は「流動性に対し、それほど悲観をしていなかったところに強烈な欠如が現れた。そのために対応が遅れた」と振り返る。ケネディクスの川島敦社長は「(リファイナンスの対応は)物件売却かリファイナンスしかないが、必死でやるしかない」「今年は各四半期ごとに短期コーポレートローンの返済期限が200億円ずつ到来する。第1、第2四半期を中心に、必死にやっている」と話す。

保有物件をさばこうにも、現状はまず買い手にローンが付かないため、ファンドは出口に困苦する。ダヴィンチは期初の運用資産残高を公表していないが、評価損を除いた実態ベースの資産は昨年6月末(1兆4935億円)とほぼ同水準とみられる。「昨年の後半6カ月、かなり大型の取引を締結しようとしたが、ほとんどが成立せず終わった」(金子社長)。ケネディクスは08年度の売却額は1000億円に達しているが、それでも目玉の案件である「KDX豊洲グランスクエア」の売却が図れていない。「(優先交渉権のある)ドイツの投資家が機敏に動かず苦慮している。このマーケット環境ではなかなか動かない」(川島社長)。

売却が困難ならば、物件を抱えてリファイナンスでしのぐしかない。だが中堅ファンド関係者は「07年前半までLTV(ローン・トゥ・バリュー、不動産価格に占める負債比率)は70~80%が当たり前だったが、現在は頑張っても50%超。鑑定価格の半額をベースにする邦銀もあり、交渉すらできない」と嘆く。今や都心でも物件評価額が低下しており、LTV低下と相まって、融資額維持は望むべくもない状況だ。

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