第4回 生き残るためにすべきこと

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会社の中期計画に合わせてキャリアの棚卸をすべし

企業は3年単位で将来像を描き、それに到達するための組織を編成する。
ところが従業員にとっての3年は、「これまでの会社生活●十年の延長線上の3年」程度の認識しかない。
 経営者と従業員の意識とスピードの違いはここにある。

新規採用が新卒中心に行われている企業では、自己申告制度やキャリア開発制度、社内公募制度、FA制度など、社員の能力開発・キャリア開発を企図した仕組みを導入しているが、機能しているとは言い難い。
 社員個人が綿密なキャリア開発計画を立てても、本人の希望通りの仕事にアサインされる確率は低いし、優秀な人材であればあるほど上司は放出したがらない。
 「人事異動」は経営計画を実行するための組織戦略の最も重要な実行手段である。
 制度としてのFAや社内公募はあっても、“本人の意向”は後回しにされる。

こうして担当課長含む中高年社員は、「個人の意思(希望の異動)は叶えられないもの」という認識が長い勤続年数とともに潜在意識に刷り込まれる。
 積極的に自身のキャリア開発をしようという志向が無くなってしまう一因でもある。

プロ野球であれば、所属球団で一定の成績を収めて7~8年の一軍の出場登録日数があればFAの権利が獲得できる。
 選手生命が短く、高卒でもいきなりエース級になりえる球界で7~8年といえば、もはや若手ではなく、中堅・ベテラン選手である。一般企業であれば、管理職級の人材といえる。
 ところが、実際の企業で導入されているFA制度は、管理職を目指そうとする若手や中堅社員向けのモチベーション向上施策であって、ビジネスパーソンとして出来上がっている担当課長はあまり想定してこなかった。

本連載では、これまで担当課長は“立場の危うい存在”だと言ってきたが、プロ野球界に例えると実績がある「FA権を獲得した選手」といえる。
 もはや育成対象ではないので、使える人材か否かで見極められ、使えないと判断されると通告されるかどうかは別として、「戦力外」と見なされる。

であれば担当課長は会社に対して受動的になるのではなく、積極的に自身の実績をアピールし、願わくば経験したい(深めたい)仕事にアサインされるような努力をすべきだ。
 そのためには、少なくとも会社の中期計画のスパンに合わせて、自身のキャリアの棚卸をして、スキルや経験値の更新をしておきたい。
 戦力外と見なされる前に、意識としては“社内フリーエージェント”となって、他組織から声のかかるプレゼンスを確立したい。

麻野 進 組織・人事戦略コンサルタント

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あさの すすむ / Susumu Asano

組織・人事戦略コンサルタント。株式会社パルトネール代表取締役。全日本能率連盟認定マスターマネジメントコンサルタント、特定社会保険労務士、早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。
1963年大阪府生まれ。国内大手コンサルティングファーム、人事・組織専門コンサルティングファーム取締役、国内大手シンクタンク・経営研究所シニアマネージャーを経て、現職。
大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングを展開。人事制度構築の実績は100社を超え、年間500人の管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。自身が部下をリストラした経験と、会社からリストラされた両方の経験を活かし、「中高年管理職問題」を解決する人事コンサルタントとして企業の組織・人事変革を支援している。
著書に『職務・役割人事制度構築・運用ハンドブック』(産労総合研究所、共著)、『成果主義人事事例集』(政経研究所、共著)、『役員の登用・評価・育成のすべて』(政経研究所、共著)がある。

 
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