養護施設の子どもが「1+1=2」理解できない事情 「数字の概念」がわからない子どもたち

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「幼児期に家で『おはじき』や『お買い物ごっこ』をしっかりやっていると、小1の段階で何となくわかって学校に来る子が多い。でも、虐待や育児放棄で絵本を読んでもらったこともなければ、一緒に買い物に行ったこともない、親といろんな遊びを幼児期に経験していないとなると、『1は記号でしかない』というのがなかなか抜けられない。

例えば、『1+1=2』は『1と1が合わさったもの』という概念ではなく、暗記してしまっている。そうすると、1桁の計算までは解けるのですが、『15+15』になると暗記できなくなってしまい、そこからつまずきが始まっていくというのが、寄り添っていると見えてきました。児童養護施設で支援している子だと小1から中3の7割はここからつまずいている印象で、中学生でもここからスタートしなければいけない」。

「プライドを傷つけず、自分のレベルに合った教材」を

国語でもオリジナルの音読教材を作り、子どもたちが文字や文章に慣れることができるようサポートしています。

「絵本を読んでもらった体験が圧倒的になかったり、育児放棄でそもそも親と会話すら十分にしてきていなかったりするので、2行くらいあるともう苦痛で読みたがらない。習慣がないので、記号が並んでいるような感じ。数学や社会をやるにも全部言葉なので、ここを克服しないことには前に進まない」と実感した森山さん。

音読教材は、「そらにあります しろいいろです これなあに」「くも」と、大人にクイズを出せるような形式になっています。これは、子どもたちのプライドを傷つけないための工夫だと森山さんは話します。

「そうすることで、『簡単なものをやらされている』という気持ちではなくて、むしろ自分が少し優位に立てる。(音読教材は)市販でもあるのですが、明らかに幼児向けになっていて、プライドがあるから読みたがらない。職員さんが『これ絶対に解きたがらないんですよ』と話していたり、職員さんに『こんなの解かせやがって』と暴言を吐く子もいたり、『私はこんな簡単な問題はやりたくない』と言う子もいたり。『自分は明らかに簡単なものをやらされている』というプライドを傷つけられることなく、自分のレベルに合った教材がスタートできるにはどうしたらいいんだろうと考えて行き着いた教材です」

(写真:GARDEN Journalism)

レベルが上がるごとに少しずつ文字数・文章量を増やし、子どもたちが負担なく楽しく続けられるように設定されています。

「レベルが上がっていくのがつらくならない程度のステップアップを意識しています。これを1日3〜5枚ぐらい。施設によっては、これを読んでからおやつタイムというところもあれば、職員さんに3枚読んで聞かせてから寝るというところも。今のところすごく好評で、先生も子どもも喜んでやっているという報告がたくさんきています」

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