「スパイダーマン」巡るSONYとディズニーの確執 「アベンジャーズ」登場危ぶまれるスパイディ

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それでディズニーは、今後の『スパイダーマン』に自分たちも50%出資し、収益を折半したいと言い出し、ソニーは断った。その結果が、これなのである。

ソニーにしてみたら、長い間、手塩をかけて育ててきた大事な子供。今さら半分返せと言われても、そうしましょうとは言えないのである。

マーベルが独自のスタジオを立ち上げ、自分たちのコミックを自らの手で映画化するようになったのは、2008年のこと。それまでマーベル作品は、ライセンス契約のもと、違ったスタジオで映画化されていた。ソニーも、その形で『スパイダーマン』の映画化権を獲得し、2002年にサム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演で製作された最初の作品を公開している。

製作開始前に大規模な発表記者会見を行うなど、ソニーは早くからこの映画に意気込みを見せていたが、結果は期待以上の大成功。北米興収4億ドルというのは、現在に至るまで歴代『スパイダーマン』映画のトップで、やはりマーベルのライセンス映画である20世紀フォックスの『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』の倍以上である。

ソニーにとっては「打ち出の小槌」

そんな美味しい思いをしただけに、この3部作が2007年の『スパイダーマン3』で華やかに完結すると、ソニーはすぐにもまたこの打ち出の小槌を振ろうした。それが、2012年の『アメイジング・スパイダーマン』だ。

だが、アンドリュー・ガーフィールドが主演するこのシリーズは、ストーリーが基本的に同じだったこともあってか、サム・ライミ版ほどの興奮は引き起こさず、2014年の2作目で打ち止めとなる。ただし、終わりにしたのはあくまでそのシリーズで、ソニーは、スパイダーマンの悪役を集めた「シニスター・シックス」の映画を考えるなど、別の形でこのお宝を使えないかと模索を続けた。

そんな中、出てきたアイデアが、当時から飛ぶ鳥を落とす勢いだったマーベルとのコラボレーションだ。苦肉の策、妥協案ではあるが、それはまた、最高の名案だった。

これによって、MCUにスパイダーマンが出てこないことにフラストレーションを感じていたファンを満足させることができ、さらに巧みにデザインされたMCUのストーリーの一部になることで、新たなファンを呼び込むこともできたのである。

最新作『ファー・フロム・ホーム』がシリーズ最高の世界興収を上げるにおいて、史上最高の世界興収を誇る『アベンジャーズ/エンドゲーム』が大きく貢献したことを、否定する人はいないだろう。それでも、MCUのキャラクターの中で、スパイダーマンだけが自分が主人公の映画をほかのスタジオで作っているというのは、やはり、奇妙な状況で、無理が出てくる可能性は潜んでいたのである。

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