岡本行夫 現場主義を貫いた外交官 五百旗頭真・伊藤元重・薬師寺克行編 ~豊富なエピソードで日本外交の実相を引き出す

岡本行夫 現場主義を貫いた外交官 五百旗頭真・伊藤元重・薬師寺克行編 ~豊富なエピソードで日本外交の実相を引き出す

評者 東洋大学経済学部教授 中北 徹

 因縁めくが本書が取り上げる岡本行夫氏は、評者がかつて奉職した外務省での直属の上司である。第1次石油危機後、キッシンジャー国務長官が先進国間の外貨緊急融資の機構設立を呼びかけたのを受け、連日連夜、大蔵省国際金融局と苦渋の折衝を重ねた。本書のとおり、旧大蔵省は鉄の扉を閉ざしてまったく寄せ付けない。その張本人が今の自民党・伊吹文明氏であるが、岡本氏はOECDでの秘密裏の交渉を舞台に、悠揚迫らざる風格と気概をもって立ち向かっていたのが懐かしい。

その後、岡本氏は牛場信彦大使らの知遇を得る。主流中の主流として、安全保障、北米一の各課長を歴任。霞が関を去った後は橋本・小泉内閣の総理補佐官に就任。湾岸戦争、基地移転、イラク戦争で、日米外交が股裂き状態に遭遇した際も、政官関係を一手に取り仕切った人物といっても過言でない。

戦後日本では戦時を想定したシステムを想定していない。湾岸戦争に際して、運輸省など国内官庁からは袖にされ、民間企業からも高い入札価格を突き付けられて、米国の会社に助けを求める輸送支援。残ったのは言い知れぬ屈辱感。辞表を懐に修羅場を奔走した外交官の生き様が描写される。日本はこの時代の総括を行っていない。

かつて「地球上で一番遠いとされた外務省と通産省」との共同戦線、大蔵省幹部ら国士的官僚との薩長同盟にも比すべきエピソードに事欠かない。しかし、個人のイニシアティブで事が動く「英雄の時代」は終焉した。

公務員の激務と処遇、各省庁設置法の抜本見直し--。業務の実態に目を据えた地道で、大局観のある改革を求めている。岡本氏は、大きく野に羽ばたきたいからとの趣旨を語っているが、評者も含めて外務省を去ったのは偶然ではあるまい。

いおきべ・まこと
防衛大学校長。専門は日本政治外交史。1943年生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。神戸大学教授などを経る。
いとう・もとしげ
東京大学経済学部長、総合研究開発機構理事長。専門は国際経済学。1951年生まれ。米ロチェスター大学Ph.D.。
やくしじ・かつゆき
朝日新聞論説委員、京都大学客員教授。1955年生まれ。東京大学文学部卒業、朝日新聞社入社。月刊『論座』編集長などを経る。

朝日新聞出版 2100円  347ページ

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