ドイツ・フランス流「オトナの」ブランド戦略 「脱・市場シェア」思考でグローバルに挑む

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グローバル化とプレミアム化が成長戦略の両輪

事業とブランドをグローバル展開するのは、広大な市場で規模を拡大するためです。多くの市場に進出して数量を売ることにより、原料調達コストを下げ、また工場の稼働率を上げることができます。その結果、固定費が下がって利益率は上昇し、そこに拡大する販売数を掛け算して事業を拡大していく戦略です。

しかし、売り上げが拡大して製品が普及すればするほど、今度はブランド価値が低下するというジレンマに陥ることになります。ですから、すぐれたグローバル企業は事業の拡大とブランド価値の向上が両立するように工夫をします。売りまくってただ儲ければいいという戦略を採っていると、長続きしません。

フランスのダノンは、1919年にヨーグルトメーカーとして産声を上げ、その後、多角化戦略によってガラス製造、ビール、ミネラルウォーター、ビスケット、チーズ、食肉、調味料など事業分野を拡大しながら成長した企業です。ところが、2007年に事業戦略を転換し、年間約20億ユーロ(当時のレートで3330億円)を売り上げていたビスケット・シリアル部門を、53億ユーロでクラフト・フーズに売却しました。代わりに123億ユーロをかけて買収したのが、乳幼児向け食品と医療用栄養食のメーカーであるオランダのロイヤル・ヌミコでした。その結果、現在のダノンの事業分野は、ヨーグルト、ミネラルウォーター、ベビーフード、病院食の4つに絞り込まれています。

ダノンの決断は、収益力と成長性のある分野に集中するという事業戦略であると同時に、「健康と栄養」というビジョンを鮮明に打ち出すためのブランド戦略でもあります。利益を出している事業を切り捨ててまで、あえて事業領域を絞り込むのは、凡庸な経営者にできることではないでしょう。しかし、成熟期を迎えた日本企業が、低コストを武器にする新興国の企業とは一線を画す「オトナの経営」を目指すのであれば、大いに参考とすべき事例だと思います。

岡崎 茂生 フロンテッジ ソリューション本部副本部長

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おかざき しげお / Shigeo Okazaki

1981年東京大学教育学部卒業、1989年ピッツバーグ大学経営大学院MBA。1982年電通入社、2006年より北京駐在。北京電通 ブランド・クリエーション・センター本部長を経て、現職。30年におよぶ広告・マーケティング領域での経験をベースに、中国企業をはじめタイ、アメリカ、韓国、日本企業などを対象に幅広くブランド戦略コンサルティングを行なう。アジア各国およびアメリカの大学/大学院でのブランド講座・公開セミナー、フォーラムでのスピーチ、雑誌連載など多数。チュラロンコン大学商学部マーケティング学科客員准教授、南京大学ジャーナリズム&コミュニケーション学院客員教授、湖南大学ジャーナリズム・コミュニケーション&映像芸術学院客員教授。

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