旅行大手HISも参入、「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み、FIT制度揺るがす

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HISの子会社は3月に国際的なパーム油の認証団体「RSPO」(持続可能なパーム油のための円卓会議)の正会員になり、RSPOの認証を受けたパーム油調達を進めようとしている。経済産業省が設備稼働の条件として、RSPO認証の取得などを通じた、環境破壊を伴わない「持続可能性」の確認を義務付けているためだ。

HISの子会社が計画している発電所の出力は4万1000キロワット。そこから計算すると、燃料として調達が必要なパーム油の量は年間約7万~8万トン程度と見られる。HISはそれに見合うRSPO認証油を確保しなければ発電所を稼働させることはできない。しかし、そのハードルはきわめて高いと見られている。

アブラヤシ(パーム)農園開発のために皆伐された山林(写真提供:熱帯林行動ネットワーク(JATAN))

RSPOなどの第三者認証を取得したパーム油の大半は現在、欧米に輸出されており、日本に入ってきている量は少量と見られる。それもほとんどが燃料以外の利用だ。パーム油発電を行うにあたって経産省は、非認証油と混ざらない形で厳しく分別管理された認証油の使用を発電事業者に求めている。

このハードルをクリアし、発電所を動かすことはできなければ、HISの場合、約90億円とも見られている設備投資が無駄になるおそれがある。計画に反対する立場から2月にHISの澤田秀雄社長と面談した東北大学の長谷川公一教授(環境社会学)は、「澤田氏自身、パーム油発電の実情についてあまりご存じでなかった。確たる展望があって事業を進めているのか、疑問を感じた」と語る。

火力発電所3基分に匹敵する認定

HISに限らず、パーム油発電に目を付けた発電事業者は少なくない。経済産業省によれば、2018年12月末時点でのパーム油発電所のFIT認定容量は、約180万キロワット。大手電力会社が運営する大型の火力発電所3基分に相当する規模だ。

それらすべての計画が実現した場合、経産省の試算では、パーム油の年間使用量は最大で360万トンに達する。現時点で稼働済みの発電所での使用量である約18万トンの20倍に相当する規模だ。食用や化粧品などの主たる用途での使用量(約60万トン)をもはるかに上回る。

もしも、180万キロワットもの発電所建設計画が現実になった場合、いったい何が起こるのか。国際価格の高騰をもたらし、食品産業の原料調達に支障を来す可能性があると経産省自身が危惧している。パーム油生産のために新たに熱帯雨林が切り開かれ、環境破壊が一段と深刻になるおそれもある。

パーム油発電のFIT認定量の急増に直面した経産省は、実際の建設を抑制すべく、ガイドラインを策定して買い取り対象となる電力に使用されるパーム油を「RSPO認証またはそれと同等」に限定した。これにより、事業開始に一定の歯止めがかかっていることは確かだ。

もっとも、「使用するパーム油がRSPO認証を取得していれば、森林破壊につながらないのかと言えば、そうとも言えない」(地球・人間環境フォーラムの飯沼佐代子氏)。RSPO自体、監査の実効性確保など課題が指摘されているうえ、パーム油の需要が増えれば、さらなるアブラヤシ農園の開発が加速する可能性が高いためだ。

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