アジア太平洋の安全保障は、アメリカ中心のままでいいのか?

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「ハブ・アンド・スポーク」の問題点

 いつくかの文献によると、「ハブ・アンド・スポーク」には、いくつかの問題が指摘されていました。面白いことに、そこで指摘されていた問題点は、「情報ネットワーク」上の問題点と同じでした。

 まず一つ目の問題点は、「ハブが機能しないとシステム全体が止まる」ということです。つまり、アメリカが動かなければこのシステム全体が動かなくなるのです。

 最近よくイラク問題に関して、アメリカの一国主義(ユニラテラリズム)が問題視されますが、アメリカが国際社会から本当に孤立し、アジア太平洋の安全保障に関心をなくした場合には、この「ハブ・アンド・スポーク」の安全保障システムは機能しなくなってしまうのです。

 多くの方々は、「そんなことはありえない」とおっしゃると思いますが、大統領が変われば政策の方向性が大きく変わるアメリカでは、何がおきるかわかりません。アメリカが、太平洋はともかく、アジアの安全保障に関心を失う可能性はゼロとは言い切れないのではないでしょうか。

 そして二点目の問題として、「日米というスポークが切れた時、わが国にとってのハブ・アンド・スポーク安全保障システムは機能しなくなる」ということです。

 現在でもわが国において、在日米軍の問題が議論されていますが、それが何らかのきっかけで激化する可能性があります。たとえば、最近の韓国における在韓米軍への反対運動について言うと、私から見れば非常に感情的なものに見えますが、このような状況がわが国にも起きないとは言い切れません。

 1990年代前半の日米関係を思い出してください。わが国は、貿易摩擦でアメリカから色々な要求を突きつけられて、アメリカの日本叩きは大変な状況でした。

 私は、90年代初めに通商産業省でコンピュータ産業担当の係長をやっていましたが、当時の仕事は「日米通商交渉」がほとんどでした。アメリカ政府から、日本政府や日本企業がスーパーコンピュータを買うように圧力を受け、夜はアメリカとのやり取り(ワシントンとは昼夜がちょうど反対)、昼は日本政府内の調整で、ほとんど働き通しでした。当時は、「なんで政府が民間企業であるスーパーコンピュータメーカの営業をするのだろうか?」とぼやいていました。それ以来、私は「アメリカ政府はなにをするか分からない」と考えるようになりました。2008年に民主党からアメリカ大統領が誕生すれば、また日本バッシング(叩き)が起こる--その可能性は、個人的にはあると思っています。

 三点目に、「複数の同盟国の利益が完全に一致することはまれで、ハブ・アンド・スポークが機能しにくい」という問題があります。

 たとえば、北朝鮮の問題に関して、オーストラリアやニュージーランドは直接の安全保障の問題とは見ていません。逆に、日本側からすると、オセアニア方面で問題が生じた時に、わが国の安全保障の問題と見なし、わが国がなんらかの行動が取れるかは不明だと思います。

 NATOのような地域的な(言い換えればウェブ的に各国がつながった)仕組みであれば、様々な国との関係がありますから、動かざるを得なくなるでしょうが、「ハブ・アンド・スポーク」型ですと、アメリカを介してコミュニケーションをとることになりますから、アメリカが同盟諸国を説得できなければ、このシステムは稼動しません。ハブに強力なリーダーシップが求められるわけです。

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