下水道が抱える巨額の借金、和歌山市では住民サービス低下の元凶に《特集・自治体荒廃》

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浄化槽の活用、公民連携…抜本策は見当たらず

下水道をめぐっては、人口5万人以下の中小市町村も深刻な問題を抱えている。こうした自治体は人口規模に見合わない過剰設備を持つところが大半で、多くの赤字に苦しむ。財団法人日本環境整備教育センターの国安克彦氏は「今後は集合処理方式の下水道ではなく、個別処理方式の浄化槽を有効に活用することが必要」と指摘する。ただ一度切った舵は、なかなか切り替えられない。

兵庫県加西市。人口約4・9万人の小都市もやはり過大な下水施設に頭を悩ませている。同市の下水道事業における地方債残高は305億円。市債全体の約55%を占めており、その償還は10年度から12年度にかけてピークを迎える。

そこで中川暢三市長のとった戦略が、「公民連携」だ。すでに上下水道事業の窓口事務、検針業務などを民間委託。これまで5000万円近い費用削減効果があったという。

今後は処理場の集約化や上水道との一体運営強化とともに、下水道運営の民間委託を想定する。「従来の官の発
想では、下水道事業はもたない」(中川市長)。

一方、もともと下水道は独立採算に合わないという指摘も多い。「あまりに採算性を求めると、公共用水域の水質保全という本来果たすべき役割が担えなくなる」(太田正・作新学院大学総合政策学部教授)。

加西市でも、課題は山積している。どういう形で民間委託するか、職員の移転……。具体策はこれからで、3年をメドに実現したい意向という。

今のところ、下水道事業に対する抜本策は見当たらない。唯一明らかなのは、住民負担が今後も拡大する可能性が高いということだ。過去の過大投資のツケが、こんなところにも表れている。

 


<INTERVIEW>
「下水道の面整備は今後も進めていく」

 

大橋建一 和歌山市市長

自治体財政健全化法が定める基準に触れ、イエローカードをもらってしまったのは大変不名誉なこと。だが、巨額といわれる下水道事業の赤字については、浸水被害が多い土地柄と、一本道の狭い道路や市道が多く工事の際の迂回路等も確保しにくいなど、和歌山市特有の事情も考慮してほしい。

対策としては、下水道をつなげた家庭への報奨金を引き上げるなどして早期に水洗化率向上を目指したい。配管は通っているのに下水道がつながらないのは宝の持ち腐れだ。

公営企業会計としては下水道事業のほか、国民健康保険、土地造成事業に赤字がある。特にスカイタウンつつじが丘の土地造成事業がバブル崩壊後にずれ込んだため、原価割れで売り出してもまったく売れない。頭の痛い問題だ。

気のゆるみは許されない 今までは料金が低すぎた

2008年度決算では連結実質赤字比率の早期健全化基準をかろうじてクリアできる見込みだ。が、気を緩めてしまえば、再び基準を超えて後戻りしかねない。

住民負担が拡大しているという批判は重く受け止めている。ただ、下水道料金についてはこれまでは低すぎた側面がある。住民も相応の理解を示してほしい。下水道整備は地元の建設業にとっても、重要な公共投資だ。当初計画よりスピードは落とさざるをえないが、今後も面整備は進めていくつもりだ。

おおはし・けんいち
1946年和歌山県生まれ。71年東京大学卒業。毎日新聞社退社後、2002年市長に就任。

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