ガラス各社は需要大幅減で設備投資削減や生産体制の再構築に迫られる《スタンダード&プアーズの業界展望》

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設備投資の大幅抑制でも、財務の改善は当面限定的

旭硝子、日本板硝子は、業績の大幅悪化を受け、設備投資を大幅に抑制する考えである。ガラス事業での合理化を推進し、ここ数年膨らんだ運転資金の圧縮にも乗り出している。しかし、有利子負債の削減に振り向けるフリーキャッシュフローを捻出するのは容易ではない。旭硝子では、ディスプレーへの先行投資やカルテル制裁金を含む一時的な資金負担増の結果、有利子負債が増加し、2008年12月期末の有利子負債に対する営業キャッシュフロー(運転資本調整前、FFO)の比率は29.6%と、現在の格付けに照らして見劣りする水準にある。スタンダード&プアーズでは従来、同指標の悪化が一時的なものにとどまることを想定していたが、収益が大幅に減少する見通しであることを踏まえると、設備投資を絞り込んだとしても、2009年12月期に改善する可能性は低い。

各社のバランスシートの悪化は続く可能性が高い。2009年度も、収益の低迷や減損・リストラ損などの特別損失の計上や、本業の不振による収益低迷により、自己資本の積み上が限定的である一方で、有利子負債の削減もそれほど進展するとは考えにくい。海外で積極的に事業展開したりM&Aにより事業を拡張した結果、最近の円高進行による為替調整勘定も資本構成に大きく影響しそうだ。旭硝子の総資本(有利子負債+純資産)に占める有利子負債の比率は2008年12月期末に前の期末から10ポイント近く上昇して43.4%になった。当面、同比率の悪化傾向が続くとみられる。

スタンダード&プアーズは、旭硝子の地理的に分散された事業・収益構成や、主要事業での緩やかな競合状況、優良な顧客基盤などに支えられ、同社は引き続き強固な事業基盤を持つと考えている。ただ電子・ディスプレー事業の収益が生産調整の緩和や需要回復などによって仮に短期間である程度回復したとしても、ガラス事業を含む全社的な収益基盤の本格回復にはしばらく時間がかかるとみている。今後、電子・ディスプレー事業の回復の著しい遅れ、欧米建築用ガラス事業の一段の需要減退や自動車用ガラス減産の長期化などにより、収益・キャッシュフローの水準がさらに落ち込み、有利子負債が大幅に増加して、キャッシュフロー関連指標の悪化に歯止めがかからなければ、格下げを検討する。一方、ディスプレー事業の収益が比較的短期間で回復するとともに、全社ベースでフリー・キャッシュフローが安定的に創出できる見通しとなり、財務基盤の回復見通しが明確になれば、アウトルックを「安定的」に引き上げることを検討する。

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