日韓関係悪化が影落とすJR「新型高速船」の針路 博多―釜山「クイーンビートル」来夏就航

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そして、就航後に直面することになりそうなのが「日韓関係」の荒波だ。

ビートルは就航以来、日韓を結ぶ手軽な交通機関として600万人以上が利用。過去最多だった2004年度の博多―釜山航路利用者数は年間35万3000人を数えた。LCCの台頭などでここ数年は18万人台で推移しており、2018年度の乗船者数は年間18万1000人。JR九州高速船は、クイーンビートルの就航により年間利用者数を30万人まで伸ばす目標を掲げている。

だが、激化する日韓の対立はビートルの利用者数にも影を落とす。7月の韓国発売分は前年比で3~4割減少したという。同社の水野社長はお盆期間について、近年は予約時期が遅くなる流れにあるとしながらも「第1四半期の傾向からいうと決して強くはない」と話す。

団体と欧米人向けを強化

「これまでもいろいろな問題で激減したり増えたりとかなり変動する航路だと思っているが、着実に成長しているのが日韓航路」と水野社長は語る。だが、LCC路線の運休や民間の交流事業中止など、日韓関係はこれまでにないレベルに悪化しつつある。ビートルの利用者数に今後どの程度の影響を及ぼすのかは見通せない。

現行のジェットフォイル「ビートル」(記者撮影)

そんな中で新たな集客策として期待するのが、団体客と欧米人旅行者への営業強化だ。

現行のジェットフォイルは191人乗りのため大規模な団体の利用は獲得できなかったが、クイーンビートル就航により、「今後は200人を超えるような団体も営業を強化していきたい」と水野社長。さらに、近年伸びているのが欧米人旅行者の利用だ。「実は2割以上の拡大傾向が続いている」といい、インターネットを中心に営業拡大を図る。

しかし、団体客の利用が広がるかは未知数。欧米人の利用者数も日本人、韓国人に比べればわずかだ。日韓関係の悪化が続けば、大型化した船を持て余す恐れもある。

JR九州の青柳社長は「国と国との関係はいろいろな問題が出てくるとは思うが、これまでも日韓の民間交流は確実に成長してきた。今だからこそ、クイーンビートルがそのシンボルとして役立つのではないかと期待している」と力を込める。

赤い新型船は玄界灘、そして日韓関係の悪化という荒波を乗り越えられるか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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