なぜ脳の活性化や疾患予防にダンスが効くのか 原宿のアジア最大級リハビリ専門病院で実証

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それには、脳の血流を増やすことで脳細胞を活性化させることが最も大切です。このような、脳神経の回復に特化したリハビリを「ニューロリハビリテーション」と言います。たとえ会話を司る脳の細胞が死んでいても、ニューロリハビリテーションで断線していた神経ネットワークが新たに構築され、別の役割を担っていた部分が失われた機能を代行すれば、再び話せるようになったケースがあるのです。

ここで、リハビリに関する複数の実験の結果をご紹介しましょう。私たちの病院では、通常のリハビリ訓練だけを行った50名と、通常のリハビリ訓練に加え、簡単なダンス運動を9回行った67名を比較しました。

すると、ダンスを加えた67名は、日常動作を自分でこなす能力の回復度と立ち歩きする速さに「大きな改善」が見られました。またリハビリにおいては「いかに転びにくくなるか」が大きな課題ですが、このことにおいても「確実な改善」という結果が得られました。後者に関しては今後も継続的な調査が必要ですが、ダンスに体の機能を取り戻す一定の効果があったといっていいでしょう。

また、これとは別に脳卒中の患者さんにも実験をしています。2週間通常のリハビリ訓練を行ってもらったところ、腕に力が入らず、腕が上がらないままの「だらーんとした状態」は改善しませんでした。そこで、音楽でリズムをとる簡単なダンスをしてもらったところ、腕が90度まで上がるようになった例もあります。

「2つのことを同時に行う」と前頭葉が活性化する

実は、脳卒中の患者さんのリハビリにダンスやリズム音楽での訓練を取り入れた海外の事例では、訓練後、以前に比べて転びにくくなるだけでなく、身体機能改善、移動能力改善の兆候も見られ、脳卒中回復の効果が持続したと報告されています。

では「ダンスの種類は?」と言えば、ジャズ、タンゴ、バレエとそれぞれ異なり、実施時間や期間もまちまちですが、この事例からわかることは、1回の実施時間や実施期間が長く、頻度が高ければ高いほど、顕著な効果が現れているということです。つまり、音に合わせて体を動かした人ほど、体の機能を取り戻しているのです。

このように、リハビリ医療の現場にダンスを導入し、成果を上げた例はこれから増えていくと思われます。現在、原宿リハビリテーション病院を中心に行っているダンスは、動画のように指先を細かく動かす「巧緻(こうち)運動」をしながら、全身でリズムを刻むのが特徴です。

親指どうし、人差し指どうしをつける「くるくる1週間」 。巧緻(こうち)運動をしながら全身でリズムを刻むと、肩や腕の動きが良くなり脳への血流もアップする

2つ以上の動作を同時に行うことを「デュアルタスク」と言いますが、単にダンスをするだけでなく、指先の運動を加えることで、「脳の司令塔」とも呼ばれる前頭葉を活性化させる効果があり、認知症予防にいいとされています。

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