対イラン、日本は自衛隊派遣「要請」を断れない イラン叩きはトランプ再選に不可欠な要素

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アメリカのキリスト教主流派は、建国以来、イギリスに起源があるピューリタン(清教徒)、長老派(スコットランド系のプロテスタント)、アングリカン(イングランド国教会)などが担ってきた。ちなみにトランプ大統領はピューリタンだ。

これらのキリスト教主流派は、社会的地位が高く、資産があり、リベラルな信者が多い。一方で、福音派は主流派プロテスタントに比べ、経済的に恵まれていない。オバマ前大統領の政策を、ブラック・アフリカ系やヒスパニック系、性的少数者などを不当に優遇するポリティカル・コレクトネスとして忌避する、「反知性主義」と評される庶民的な福音派が勢力を増している。

こうした福音派の信者は、信仰から旧約聖書の「ユダヤ人」と、自分たちとを一体視する傾向が強い。ともに選ばれた民族なのだ。

イエス・キリストが再臨する場所をイスラエルと見なし、イスラエルが国を確保し、さらに領土を拡大することが再臨の条件と考える。福音派としては、イランの核はイスラエルに向けられていると考えるので、絶対に阻止しなければならないという使命感がある。

イランの核兵器の脅威を以前から訴えているのが、イスラエルのネタニヤフ首相。が、イスラエル単独ではイランと対抗できないから、アメリカを動かす。

アメリカ国内で資金力とロビー活動による政治力があるユダヤ・イスラエルロビーだが、アメリカにおけるユダヤ人は500万人ほど。しかも伝統的に、ロシアや東欧から移民したユダヤ人を受け入れてきた民主党に、投票する人の割合が高い。ユダヤ・イスラエルロビーでトランプ氏と協調する勢力は、数が多いキリスト教福音派との同盟関係が頼りだ。

「イラン脅威」で手を結ぶイスラエル、サウジ、UAE

イスラエルの「イラン脅威論」については、サウジアラビアのムハンマド皇太子やUAEのムハンマド皇太子も共有する。ペルシャ湾を挟んでスンニ派と相いれない、シーア派大国のイランは脅威だ。イランが核を保有すれば、サウジアラビア、UAEの地位は下がる。イスラエル、サウジアラビア、UAEの宗教を超えた関係=裏同盟は、トランプ大統領の娘婿クシュナー氏と愛嬢イヴァンカ氏(結婚により夫と同じユダヤ教正統派に改宗)を媒介に形成され、トランプ大統領と一蓮托生の関係にある。

2020年11月の大統領選挙まで、アメリカとイランのチキンレースは続き、世界が振り回される。アメリカとイランは戦争になるのか。アメリカによるイランに対する過酷な経済制裁、サイバー攻撃や無人機撃墜をみれば、広義の戦争はすでに始まっているともいえる。ただ、空爆し艦砲射撃、地上軍攻撃という「本当の戦争」は、まだ始まっていない。

「今の情勢は、相手の出方を探るアメリカとイランのプロレスごっこ、という印象がある。ただ、ものの弾みで、戦争になる可能性がある」(元外務省幹部)。しかし、イランはもちろん、アメリカも全面戦争まで望んでいないだろう。アメリカの能力にも限界がある。中東研究者は「最悪のケースでイラン船舶の拿捕や局地的偶発戦だろう」と予測する。

節目はイスラエルの再選挙の投票月である9月。ロシアからの移民政党「我が家イスラエル」が政権から離反し、4月の総選挙で勝利したが、6月の組閣に失敗したネタニヤフ首相は正念場だ。アメリカにさらに強硬策を迫るだろう。外務省元幹部によると「アメリカはイランの交戦能力を調査中で9月頃に結論が出る。有志連合の役割や規模が決まる」という。

現段階では、アメリカとイランとの戦争が開始され、「ホルムズ海峡閉鎖、エネルギー危機」を想定するのは時期尚早。ただ、2020年11月まで長々とトランプ大統領に振り回されるとすれば、やりきれない。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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