政府紙幣発行は、日銀の国債引き受けより弊害が大きい

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複数ある発行の方法

まず発行方法だが、実務的にはいくつか考えうる。(1)政府貨幣(たとえば10円硬貨)の発行と同様に、政府紙幣を日銀の窓口を経由して国民に流す方法、(2)日銀を経由せずに、直接に市中に流す方法。(2)の場合は、政府の民間に対する支払いの一部(国債の償還や国家公務員給与の支払いなど)を政府紙幣で行う。

問題としては、(1)、(2)共通だが、市中に日銀券と政府紙幣の2種類の紙幣が流通してしまうことが挙げられる。また、(2)では、国の出納業務を日銀が一元的に行う大原則が変更される点も重大だ。実施に際しては大幅な法整備が必要となる。

しかし、こうした問題を避ける方法がある。(3)たとえば政府紙幣を10兆円発行するのであれば、政府は10兆円札を1枚作り、日銀の政府当座預金口座に預金する。すると政府の日銀当座預金口座残高が10兆円増加し、同時に日銀は資産として10兆円の政府紙幣を保有することになる。政府がこの当座預金を引き出すときに発行される通貨は当然日銀券となり、市中に発行体の異なる紙幣が流通することは起こらない。実は10兆円札を作る必要はなく、政府と日銀の帳簿の操作だけを行えばいい。

そこでこれ以後は、(3)の方法を前提として考えていこう。

(3)では、政府紙幣発行額がほぼそのまま政府の受け取る通貨発行益となり、同時に歳入となる。

ちなみに、日銀が日銀券を発行する場合、発券は日銀にとっては負債の増加となり、日銀には(発行額と製造費用の差額という意味での)通貨発行益は発生しない。これは市中銀行が金融債を発行しても、発行額と発行費用の差額が利益にならないのと同じである。日銀が日銀券の発行で得る利益は、発行に伴って取得する金融資産の運用益である。

実は(3)は国債の日銀引き受けとほぼ同じことだ。異なるのは無利子・無期限であることと、国債発行残高が増加しないという点だけである。

では、政府紙幣発行論の問題点は何かを考えてみよう。

財政的側面での第一の問題は、前述のように政府紙幣発行が国債の日銀引き受けとほぼ同じである点だ。
 

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