海外の長期投資家が日本株を全く買わない理由 これから本格化する企業決算には注意が必要

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ところが、中国側は「確かにトランプ大統領から農作物を買ってくれとは言われたが、そうすると言った覚えはない」と述べていると報じられ、大統領もツイッターで「いつまで経っても中国が農作物の購入拡大策を打ち出さない」、といら立っている。また、ファーウエイについては、米商務省は「ファーウエイをエンティティリスト(禁輸リスト)から外さない」、と正式に表明している。ということは、トランプ大統領が農作物やファーウエイについて、米中首脳会談を受けて語ったことは嘘っぱちだった、ということになる。こうした点が、じわじわとアメリカの株式市場で、米中通商交渉の先行きについて疑念を広げつつあるのだろう。

もうひとつの連銀の利下げ期待は、ジェローム・パウエル議長が利下げの実施を示唆してからだいぶ時間が経つにもかかわらず、いつまでも株価が上がるたびにマーケットでは「利下げ期待だ」と繰り返し述べられている。利下げの可能性が強く打ち出されて、それを材料に一度株価が上がるのは、まあ理解できる。しかし、「ちょっとした利下げの可能性」が「かなりの利下げの可能性」、「すごい利下げの可能性」、「すさまじい利下げの可能性」と進展し続けていくのでなければ、株価がずっと上昇基調をたどることの説明としてはおかしいと感じられる。

つまり、最近までのアメリカの株価はしっかりした根拠を欠いた上昇だ。とは言っても「何も上がるべき理由がないのに上がっている」とは市況解説では言えないので、無理やりに「利下げ期待」を持ち出して不可解な株価上昇を説明上正当化しようとしている、というのが実態ではないか。

一方、日本よりやや先行して、アメリカで4~6月の企業決算発表が本格化した。IBMのように、市場の事前予想を実際の収益が上回ったとして、株価が上昇したケースもあるが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(決算説明会で医薬品事業の競争激化に言及)、CSX(鉄道大手、売り上げ予想を下方修正)、ネットフリックス(4~6月の契約者数の伸び悩み)などは失望を呼び、それぞれの企業の株価のみならず、市場全体に影を落とした。今週以降も、そうした失望が勝る展開が懸念される。日本株を支える唯一の材料とも言える、アメリカの株価が崩れて行けば、日本株もひとたまりもないだろう。

今週以降は「悪い決算」がいよいよ株価の重石に

今週以降、日本でも4~6月期の決算発表社数が増えてくる。すでに「前哨戦」としては、安川電機が3~5月期の決算を発表し、純利益が前年比7割も減少したため、株価の圧迫要因となった。またNOKは2020年3月通期の業績見通しを下方修正し、キヤノンは2019年12月通期の業績見通しを減額修正するとの観測報道が流れた。こうした暗い動きが、今週以降の決算発表の内容についても、市場の警戒感を強めており、そうした警戒感は収益悪化についての確信へと踏み出しかねない。

株価が一気に崩れてくるとも見込みがたいものの、先週のようなドタバタの上下動を繰り返しながら、日本株は徐々にレンジを切り下げていきそうだ。そうした流れの中で今週の日経平均は、2万700円~2万1500円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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