シリコンバレーの外国籍エンジニア受難、失業・国外退去の圧力、日系企業には人材確保のチャンス?!

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 ヤフー、グーグル、インテル、HP、シスコ、オラクル、IBM、アドビ・システムズ、サンディスク、マイクロソフト、AMD、サン・マイクロシステムズ、デル・コンピュータ、ザイログ、テキサス・インスツルメンツ...。シリコンバレーのハイテク企業に首切りの嵐が吹き荒れている。

米労働省によれば今年1月だけで、全米で約60万人が職を失った。シリコンバレーでは約20万人の技術者たちが失業の危機に直面中だ。大手銀行・ウェルスファーゴ銀行のエコノミストは「今年中、シリコンバレーでは更に多くのレイオフが起こり、コスト削減が今年中続く」と予測する。

こうした中、外国人の経験豊富な技術者が米国内で働けるよう90年代に法制化された「H−1Bビザ」が問題になっている。これは、急成長していたハイテク業界の人材不足に応じて制定されたものだ。入国管理法に基づくH−1Bビザは年間割り当て制で、2万人の米大学院等を出た外国人技術者を含む、外国人8万5000人に向けて、09年は出される。マイクロソフトの人員削減に関し「米国人社員を解雇するより先に、H−1Bビザを持つ外国人社員を首にするべき」というアイオア州選出の上院議員まで出てきて、風当たりが強くなる一方だ。

世知辛くなった米国の世間の風当たりだけでなく、実際問題として帰国を余儀なくされるケースが増えている。そもそも仕事関係で発行されたビザだから、解雇されると数カ月以内に新たなスポンサーを探さなければ、このビザではアメリカに居られなくなる。

アイビーリーグの工学部大学院を出たインド人技術者・ラヴィは「あと1カ月でクビになる。卒業後、地道に3年間ベンチャー企業で働いてきたのに……」

資金繰りが苦しいベンチャー企業の場合、貸し渋りの現在、資金繰り難から潰れたり、身売りする企業が続出中だ。「大企業で働く同郷の友達も、彼らの仕事がどうなるか現状を相当案じている」(ラヴィ)。

シリコンバレーのある企業幹部は、「国籍より、会社に利益をもたらす有能な人材かどうかが、企業の成長に最も優先されるべきこと。政治がらみで有能な人材の雇用が難しくなりそうな状況をそのままにしておくことは、シリコンバレーの活力が損なわれることにもなりかねない」と、危惧する。

「自分にとって、日本の方が活躍の場がありそうだ」と語るのは、マウンテンビュー市のグーグル本社で数年働いていたある日本人技術者。家族を伴って帰国、東京の日本企業でエンジニアとして働いている。
 
 国際展開を狙う日本企業にとっては、このところのアメリカでの景気後退は、職を失った英語の出来る日本人技術者、そして、インド、中国出身でシリコンバレーで鍛えられた優秀なエンジニアたちを雇うチャンスかもしれない。シリコンバレーの流儀に馴染んだエンジニアたちは、家族を養える報酬とやり甲斐さえあれば、世界のどこへでもいく。インドや中国、欧州などさまざまな出身の、母国語だけでなく英語の流暢な外国人エンジニアはシリコンバレーには多い。
 
 アメリカの人材を吸い寄せる力が弱まった今こそ、日本企業は、有能な人材を確保の絶好の機会ではないか。「アメリカ滞在が違法にならないうちに、ぜひ仕事を見つけたい。今、ここでは多くの技術者が仕事を探しているから、難しいかもしれない。仕事があれば世界のどこへでも飛んで行く」と、オラクルで働いてきたある中国系エンジニアは断言する。
(Ayako Jacobsson =東洋経済オンライン)

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