広島、豪雨被災地を支えた「臨時バス」の舞台裏 「災害時BRT」の経験、今後にどう生かすか

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この災害時臨時輸送バスを、何とかして時間短縮できないかと考えた人物がいた。呉工業高等専門学校の神田佑亮教授だ。公共交通の利用促進や交通需要予測が専門の教授は、災害発生直後から広島県庁や呉市役所、中国地方整備局、中国運輸局などを回って被災や復旧状況の情報収集にあたっていた。

災害時臨時輸送バスが運行開始した13日の夜、神田教授はあることを思いつく。

ETC2.0の端末から集まった車の速度データを見ると、呉市内の天応(てんのう)地区、大屋橋を先頭に国道で激しい渋滞が起きていることがわかった。ここを回避できれば時間を短縮できる。並行する広島呉道路は坂町水尻地区の崩落で不通だが、呉市中心部寄りの一部だけでもこの道路を使えれば、バスの時間短縮になる。

「災害時BRT」で天応西ICを経由し、坂駅へ向かうJR呉線代行バスの直通便(写真:神田佑亮)

問題は、呉方面向き(広島方面行き車線からの出口/呉方面行き車線への入り口)のインターチェンジである天応東IC付近の一般道が土砂崩れで被災し、同ICが使えなかったことだ。もう1つの「天応西IC」は逆向きで、今回の目的では普通なら使えない。だが、神田教授は「天応西ICでバスをUターンさせる方法がある」と気づいた。

道路上でのバスのUターンが認められれば、呉―天応西IC間は広島呉道路を使える。国道31号経由に比べ距離も短く、渋滞を避けて時間短縮が可能となる。神田教授はこのアイデアを呉市に持ち込み、実現に向けて動き始めた。

「災害時BRT」運行開始

この方法で広島呉道路を活用して運行するバスは「災害時BRT」という名前を用いることにした。BRTはバス高速輸送システムのことだ。神田教授は「『災害時緊急輸送バス』だと暗い気持ちになるし、一般の人に浸透しないが『BRT』なら頭に残る。それが狙いだった」と語る。ほかの地域で災害によって交通が寸断されたとき、「広島で『災害時BRT』をやっていたと誰かが思い出して輸送対策につながるといいと思った」ことも大きな理由だ。

災害時BRTが始まった7月17日から7月20日までの広島―呉間の公共交通の状況(筆者作成)

「災害時BRT」は7月16日の第2回広島県災害時渋滞対策協議会で運行開始が最終的に決定した。神田教授がUターンのアイデアを思いついたのは13日夜。丸3日で調整を完了させたことになる。

翌17日から動き出した「災害時BRT」は朝の呉駅から広島駅への移動で絶大な効果を発揮した。車では2時間18分かかったところ、同じ時刻に出発したバスは45分で広島駅に到着。それ以外のバスも最長1時間7分、最短で40分と絶大な時間短縮効果を発揮した。

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