時代を超える普遍性に思いを馳せる 《ワイン片手に経営論》第1回

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 経営戦略や事業戦略の理解においても、おそらく同じことが言えるでしょう。「弊社は、○○を販売しています」というのは、あくまで事実の羅列であって、(会社に人格があるとすれば)その“法人格”なるものは見えてはきません。「弊社には、△△というコア技術があります」、「成果目標制度による先進的な人事制度を採用しています」なども、すべて同じです。ここで語られるべきは、その背景にある物語であるべきです。「なぜ、その商品を販売するのか」、「その技術は事業においてどのような意味を成すのか」。こうしたことが、平易な言葉で語られない限り、そして、語れない限り、経営や事業自体が、もはや惰性の産物となってしまっている、と言えるかもしれません。

 私は現在、グロービス経営大学院においてテクノロジー・マネジメント(通称テクマネ)のクラスを担当しています。今回、GLOBIS.JPでのコラム執筆依頼が来た際に、私は担当クラスのテクマネに関するコラムを執筆しようと当初考えました。しかし、テクマネで教えているネタをコラムに書いてしまったら、受講生がわざわざ私のクラスを履修する価値がなくなってしまうのではないか? 仮にクラスで教えるテクマネの分析手法や枠組みをコラムでご紹介したとしても、読み手にその枠組みを超えた普遍への意識を上手に伝える方法がない限り、コラムに執筆する意味がないのではないか? と思い、クラスでは普段お話しできないテーマを扱おうと思いました。

 テクマネのクラスでは、受講生とインタラクティブに授業を進めることができるので、受講生の分析力、普遍性への意識の馳せ方などを直接に見ながら、議論を展開することができます(クラスは1回3時間の構成のため、一般的には、この短時間に普遍性まで思考を昇華するのは極めて難しいのですが、普遍性や物語に意識を向けるべく鼓舞しながら、という感じで進めています)。しかし、これは一方向のコラムでは、さらに難しいことだと考えています。そこで今回執筆するコラムは、単なる枠組みの当てはめや分析結果で終わることなく、私なりの物語を語ることで、何らかの普遍性への昇華を目指したいと考えました。

 そのテーマとしては、「ワイン」を取り上げたいと思いました。

 なぜ、ワインか?

 それは、私が単純にワイン好きということもありますが、ワインが、何千年という長い間、飲み継がれてきた飲み物であり、そこに普遍的な要素や物語が多く存在すると考えるからです。また、このワイン業界が歴史的な転換点にあると私自身、認識していることも大きな理由の一つです。ある意味において「フランスを頂点として不変」と思われてきたワイン業界が、まさに変化しつつある今、そこには経営に示唆を与える何か大きな本質が隠れていると感じています。

 このコラムが何回連続するか、今のところは分かりませんが、私なりにワインの歴史を語りながら、「ワイン」と「テクノロジー・マネジメント」の交差するところで、その経営的意味合いや示唆をご紹介していきたいと思います。皆様、乞うご期待。

《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2008年10月3日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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