母娘を6年間引き裂いた衝撃の「誘拐犯」の正体 火災で「死亡した」はずの娘をさらったのは…

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「デリマールは生きているわ。あの子は誰かに誘拐されたのよ」

皆が悲しみにくれ、葬式の準備を始める中、意外な声を上げたのは、母・ルースだった。ルースには「2つの疑問」があった。

1つ目は、炎の中で見たベビーベッドにデリマールがいなかったこと。生後10日の娘が自力でベッドを出るはずがない……2つ目は、閉めたはずの2階の窓が開いていたこと。

季節は12月、窓はすべて閉めていたはず……ルースは「何者かが火をつけ、デリマールを連れ去ったに違いない」と直感的に思ったのだ。

しかし、消防や警察、メディアが「死亡」と断定した以上、誰一人相手にする者はいない。

誰もが、悲しみのあまりルースの精神状態がおかしくなってしまったと考えた。

消防は火災の原因を、ルースがつけた電気ヒーターと断定しており、その後ろめたさが、ルースの心を追い詰めていると考えていた。「死んだ娘を生きていると言い続けるおかしな母親」。……それが、ルースだった。

警察にデリマールの捜索を依頼しても「すでに死亡している」としてまったく取り合ってもらえない。スペイン語しか話せないルースは、世間に訴えることもうまくできない。次第に夫・ペドロとの間にも溝が生まれていく……孤立を深めるルースは、娘を捜す術を何一つ見いだせずにいた。

そして火災から4年が過ぎ、デリマールの父、ペドロは家を出ていく。経済的にも困窮していく中、ルースの主張を信じてくれる人は、あの火災から、誰一人現れることはなかった……。

火災から6年、衝撃の「再会」

娘・デリマールと生き別れてから6年が過ぎた頃、ルースのもとに1本の電話が……。「知り合いのパーティーに顔を出したら、俺とお前によく似た女の子を見たんだ」。別れた夫のペドロからだった。火災から6年。初めてもたらされた「デリマールの情報」。ルースはその少女がやってくるというパーティーに駆けつけた。

そこで出会った1人の少女。アリーヤという名の女の子を見た瞬間、「体に衝撃が走った」と、のちにルースは語っている。「彼女を見たときに、私の娘だと直感しました。赤ちゃんのデリマールは、笑うとえくぼができたんですが、まったく同じえくぼがあったんです」。

少女を一目見て、ルースは「デリマールに間違いない」と確信した。6年間、たった一人で娘の生存を信じ続けた母は、ついに、わが子との「再会」を果たしたのだ。

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