ANAを”なぞる”JALのしたたかな戦略 新年度の国際路線計画がそっくり

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獲得枠で大きく差をつけられたJALとしては、路線計画で思い切って差別化をする手もあったはずだが、結果的にはANAの戦略をなぞった格好だ。発着空港や行き先、便数だけでなく、時間帯にもほとんど差がなければ、日本の航空会社を利用しようとする顧客の決め手は、事実上、ブランドの違いと価格面に絞られる。特に価格は大きなポイントだろう。

大胆な価格攻勢に出る?

利益水準ではJALのほうがかなり高い

そうなると、ANAは戦々恐々かもしれない。円安の進行や燃油費の上昇でいずれも減益の見通しだが、2014年3月期の営業利益計画はJALが1550億円、ANAが600億円。

ここまで大きな開きがあるのは、JALが2010年の経営破綻から再上場にこぎ着けるまで、徹底したコスト削減で収益力を高めたからだ。

ANAが4月から消費増税を踏まえて国内線の普通運賃を値上げするのに対し、JALは据え置きを表明。国際線については消費税の対象外のため、ANAも普通運賃の値上げはしない。ただ、12年の再上場後、JALは国際線の大口の法人顧客に対してANAを大きく下回る価格を個別に提示した例もあるなど、攻めの姿勢を強めている。

また、国際線でANAと真っ向勝負するJALの姿勢は、以前から見受けられた。10年の経営破綻に伴う再生の過程で、JALはモスクワ、フランクフルト、ロンドン、パリへの路線を残し、アムステルダム、ローマ、ミラノへの路線を休止した。

このうち、フランクフルト、ロンドン、パリはANAも飛ばしていた路線であり、アムステルダムなどはJALの単独路線だった。その後、JALは残した国際線でANAに大胆な価格勝負を仕掛けている。

1カ月以上も前に先行して発表したANAの路線計画の一部をなぞったJAL。発着枠の獲得ではANAに水をあけられたが、向上した収益力を武器に大胆な価格攻勢を仕掛ける腹積もりならば、今回の路線計画はしたたかな戦略ということになるのかもしれない。

(撮影:梅谷秀司)

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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