「かんぽの宿」売却で混沌、日本郵政の躓き 鳩山邦夫総務相が突然の異議申し立て

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では、入札のやり直しをせず、売却を急いだのはなぜなのか。日本郵政には特有の事情がある。同社は「日本郵政株式会社法」に基づき、2012年9月末までに旧郵便貯金法に基づく周知宣伝施設(メルパルクなど)、旧簡易生命保険法に基づく加入者福祉施設(ゆうぽうと、かんぽの宿など)の譲渡・廃止を行わなければならない。保有資産の売却がなかなか進まなかった国鉄民営化を教訓に踏まえて、「時限」が設定されたことがポイントだ。

民営化実現のカギ

遊休施設や不採算施設の売却は、民営化を成功させるために大きな意味を持つ。何しろ郵政事業が宿泊施設、福祉施設などに多角化を進めたことで、219社ものファミリー企業が群がる構図になっており、それが03年4月の公社化後も温存された。株式会社化した日本郵政では、こうしたファミリー企業との不透明な取引関係を絶つことが、早期の株式上場を目指すために不可欠な課題と位置づけている。

1月9日の衆議院予算委員会で、西川社長はかんぽの宿の運営について「これは不採算事業で、持てば持つほど負担がかかってくる。早く売却できるものであれば、早く譲渡したいというのが一つの理由」と答弁している。大方針はスピード重視。世田谷レクセンターを外した形で入札を初めからやり直せば、半年以上のロスになる。とてもではないが、仕切り直しの議論が起こる雰囲気ではないわけだ。

総務大臣の追及を受けて、かんぽの宿売却の行方は混沌としてきた。リストから除外した世田谷レクセンターのほかにも、「メルパルク(旧郵便貯金会館等)」や五反田の「ゆうぽうと」など、売却候補はまだある。一括譲渡でのつまづきは、今後の施設売却にマイナス影響を及ぼしかねない。

 

 

(撮影:田所千代美 =週刊東洋経済)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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