あのTikTokに次ぐアプリ、「PDD」って何だ? 中国でアリババの座を脅かす新興ECの素性

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低価格を実現しているのはSNSである。アリババと並ぶ、IT大手テンセントが擁する国民的SNSアプリ「ウィーチャット」などのコミュニティーをベースに、複数の友人と一緒に商品を購入すれば、さらに安く買える仕組みを提供している。

SNSアプリ「ウィーチャット」上で「Buy Together」(左下)を選択し、複数の友人と一緒に商品を購入すれば、さらに安く買うことができる(筆者撮影)

PDDにとって、テンセントは育ての親であるといえる。テンセントは2015年に起業家トレーニングと支援を行うプラットフォーム「青騰訓練所」を設立。のちの「青騰大学」だ。起業に関する知識を提供するだけでなく、テンセントの投資先を選定・育成する場になっている。PDDの創業者・黄峥(フアンジョン)氏は2016年に参加し、同年にテンセントからの出資を勝ち取った。

 自らEC事業を手がけようとしないテンセントは、アリババとの正面対決を避けているように見えるが、実際はPDDや京東などのECプラットフォームに投資している。

売上高急成長の反面、赤字も拡大

そのプラットフォームに自社SNSのユーザーを誘導する戦略をとり、競争優位を確保しようとしているわけだ。PDDはIT巨人テンセントの戦略に利用されながらも、したたかに利用しながら成長してきたといえる。

だが、PDDも当然ながら、熾烈なユーザー獲得戦争と無縁ではない。中国のインターネット人口は8億人を超えた。成長余地は残されているものの、ペースは鈍化している。

PDDがシェアを伸ばす地方エリアも、アリババが最新の決算発表で地方ユーザー増加を大いにアピールするなど、すでに激戦区と化している。新規ユーザーを獲得するためのプロモーションコストは上昇し、売上高の急成長とは裏腹にPDDの赤字は拡大の一途をたどる。競争が一段落する気配はまだない。

越境ECなどを通じて、中国市場の開拓を急ぐ日本のメーカーや小売企業にとっても、中国EC業界の地殻変動はひとごとではない。中国でのモノの売り方、買い方は刻一刻と、そしてダイナミックに変化している。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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