伊勢丹発「百貨店SPA」、他人任せではもう売れない

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デニムでの経験を生かす 自ら指揮するものづくり

実は自主企画商品自体は、伊勢丹に限らずほとんどの百貨店が扱っている。百貨店が企画から携わり、メーカーや商社が作り、発注分は百貨店がすべて買い取る。しかし「百貨店企画といっても、単にメーカーに要望を出して作らせている程度のケースもあり、どこまでが“自主企画”なのかは非常にあいまい」(関係者)なのが現実だ(下ページ図)。

このとき櫻井氏がNSスタイリングでやろうと決めたことは、少し違った。商社やメーカーを中抜きし、百貨店自身が一から商品を作る「百貨店型SPA」。百貨店にとっては180度の転換に近い冒険なのだ。

「あのときの経験が平場にも使える」という確信があった--。櫻井氏は、08年春に伊勢丹オリジナルの女性用デニムをヒットさせた仕掛け人。デザイナーやディレクターとともにチームを結成し、自ら岡山県の工場まで赴いて伊勢丹の顧客が求めるデニムを一から作った。工場は、百貨店の人が来るなんて初めて、と驚いた。いきおい職人たちはこちらの本気度を試してきた。

今回はまず、ターゲットとする30歳前後の女性を中心にインタビューを実施、伊勢丹の婦人服に求めるものを分析した。彼女たちは、素材のことから流行のことまで、とにかく知識が豊富。ユニクロも着るが、上から下まで高級セレクトショップでそろえることもある、消費トレンドの先導者たちだ。「値頃であっても本物でなければ買ってくれない。百貨店はいくら価格を抑えても、駅ビルで買えるのと同じようなものを作ってはダメなんだ」と実感した。

櫻井氏は、“本物”を作るために、かつて「ナショナルスタンダード」などの人気ブランドを手掛けたデザイナー、若林ケイジ氏とともに人脈を探り、賛同してくれそうなデザイナーや工場に声をかけていった。

協力デザイナーの一人は、「正直なところ、百貨店の平場にあまりいいイメージはなかった。でも、そこにウチの商品が入るとどうなるんだろう、という興味はあった」と、当時の心境を語る。「百貨店とウチのブランドの客層は違う。でも、ウチの服を買いやすい価格帯で百貨店に並べれば、そこにマーケットはあると思った」。

こうして、ファッションの最前線で活躍するデザイナー数人と、品質に定評のある工場数カ所の協力を得て、08年秋冬の約10アイテムが完成した。シャツ6900~9900円、チュニック1万0900~1万3900円。インショップ売り場のブランド品より2~3割安い。なおかつ、専門店よりファッション性は高いはず--。そして、商品の身元はすべて把握しているから、品質面でも自信はある。

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