人事部がこれから「会社の裏方」でなくなる必然 GAFAも導入する「戦略人事」とはいったい何か

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戦略人事を成功させるには、もちろん個人の努力だけではなく企業としてこの新たな役割をどう定着・浸透させていくかもカギになるだろう。先ほど紹介したような定義の曖昧さを回避するためにも、HRビジネスパートナーと運用管理が主体の人事とではまったく別のスキルセットが必要なことを理解したうえで、何を期待しているのか当人へ明確に伝えることが必要だ。

社内での立ち位置を周知するためにも、経営と事業部とのコミュニケーションに積極的に巻き込んでいくといいだろう。それがひいては、経営・事業の理解促進にもつながる。

また、戦略人事がうまく機能している企業のなかには、あえて人事部から抜擢するのではなく、事業部側から選出しているケースもある。これは、人事的な知見は乏しくても、事業を深く理解している人なら事業成長に強くコミットメントしやすいという強みを重視しての抜擢。加えて、次世代リーダー(幹部候補)を育成する目的で、ジョブローテーションさせている場合もある。

注意点は?

これは、経営視点を養う意味でかなり有効な手段だ。なぜなら経営リソースである「ヒト・モノ・カネ」のうち、ヒトについて中長期視点で考えていく仕事でもあるし、生産・営業・マーケティング……と事業のビジネスプロセスを横断的な目で見ていくポジションでもあるからだ。

当然、既存の仕事ではあまり関わってこなかった社内関係者との協働も増えるので、多元的な視点で状況を捉え、意思決定をしていく力も身に付きやすい。

このように、戦略人事は既存の人事の中から任命するのも、事業部から抜擢するのもどちらもやり方次第で有効だが、1点だけ注意しておかねばならない。それは、誰に任せるかの判断基準。従来の延長線上にはない仕事の任せ方をするため、既存の仕事の評価基準があまり参考にならない場合もあるからだ。

弊社が組織コンサルティングを行う中でも、こういった例はよく見受けられる。客観的なモノサシで個人の能力や適性を把握していないために、人材配置にミスマッチが起こっているケースはよくある。昨今とくに引き合いが増えているのがこうした負を解消するために、客観的な評価基準で人を見極める人材のアセスメントだ。

マネジャーの勘と経験だけで実施されていた旧来型の人材配置や育成にメスを入れるのに非常に役に立っていると評価いただいている。これは人材配置の納得感も醸成することが可能で、まさに戦略人事を実践し、経営にも関わるような重要な人材の抜擢には、なおさら活用をオススメしたい。

以上のように戦略人事についてお伝えしてきたが、いずれにしろ従来の人事業務が縮小していくことは時代の変化によってもはや避けられないことだろう。人事のみなさんにとっては心穏やかでない話かもしれないが、この状況にいち早くみなさんが身を置くことは、実は人事職にとって非常に意味のあることだ。

なぜなら、イノベーションによって自分の役割・仕事がなくなるのは、人事だけの話ではないのだから。ある仕事がなくなったとしても、そこで活躍していた人が持つスキル・能力を分解・整理して見極め、新たな役割へと再配置すること。それができる人事のいる企業こそ、変化の激しい時代も力強く成長を続けられるのではないだろうか。

徳谷 智史 エッグフォワード 代表取締役

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とくや さとし / Satoshi Tokuya

京都大学経済学部卒業。企業変革請負人。組織・人財開発のプロフェッショナル。大手戦略系コンサル入社後、アジアオフィス代表を経て、「世界唯一の人財開発企業」を目指し、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサル、リクルートグループなど、業界トップ企業数百社に人財・組織開発やマネジメント強化のコンサルティング・研修など幅広く手がける。近年は、先進各社の働き方改革、AI等を活用したHR-Tech分野の取り組みや、高校・大学などの教育機関支援にも携わる。趣味はハンドボール、世界放浪等。ご相談・取材・執筆・講演依頼はこちら

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