CIA秘録 その誕生から今日まで 上・下 ティム・ワイナー著 藤田博司/山田侑平/佐藤信行訳 ~数々の謀略を裏付ける調査報道の鏡

CIA秘録 その誕生から今日まで 上・下 ティム・ワイナー著 藤田博司/山田侑平/佐藤信行訳 ~数々の謀略を裏付ける調査報道の鏡

評者 『インサイドライン』編集長 歳川隆雄

 本書を読み進めていくうちに、31年前のことが走馬灯の如く思い起こされた。評者は当時、『週刊ポスト』の編集者を務めていたが、1978年新年号から4週間にわたって「戦後史を塗り変える独走スクープ!」と銘打った連載記事を担当した。A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに収監された岸信介元首相が、48年10月に釈放されてから、わずか8年間で首相の座にまで上り詰めた「背景」には、当時のアイゼンハワー米政権下の、日本占領政策の転換との密接な関係があった、と書いたのである。

著者は上巻第12章で、2006年7月の米国務省声明「(1958年から68年まで)アメリカ政府は、日本の政治の方向性に影響を与えようとする四件の秘密計画を承認した。<中略>58年5月の衆院選挙の前に、少数の重要な親米保守政治家に対しCIAが一定限度の秘密資金援助と選挙に関するアドバイスを提供することを承認」を紹介し、その支援が、岸元首相に対するものであったことを、著者がCIA(米国中央情報局)、国務省、及び国家安全保障会議(NSC)関係者とのインタビューによって確認したと断じている。ちなみに58年総選挙は、第2次岸政権のもとで実施されている。
 
 それだけではない。評者を欣喜雀躍させたのは、次の件に出くわしたことだった。

「岸は『ニューズウィーク』誌の東京支局長から英語のレッスンを受け、同誌外信部長のハリー・カーンを通してアメリカの政治家の知己を得ることになる。カーンはアレン・ダレスの親友で、後に東京におけるCIAの仲介役を務めた」

このハリー・カーンの存在を前年秋に知ったことが、連載記事の“肝”である「反共・親米政治家、岸信介の復権とアメリカの冷戦政策との関係」取材を始める契機となったのだ。そして同記事に、日米戦争開始時の駐日大使のジョセフ・グルーの助力を得て反共保守派の日本ロビー「アメリカ対日協議会」を結成したカーンこそが、対ソ連冷戦政策の推進者となったジョン・フォスター・ダレス元国務長官と、本書の主人公でもある弟、アレン・ダレス元CIA長官の“尖兵”ではなかったのかとも書いた。

そうした「仮説」のほとんどが、著者の封印を解かれた膨大な公文書読み込みと、300人以上の情報機関関係者とのインタビューによって、事実であったことが証明されたのである。

奇しくも1年後の79年1月に発覚した「グラマン事件」のキーマン(同社代理人)としてカーンの名前が日米で同時に報じられたのだった。本書は、まさに調査報道の鏡である。

Tim Weiner
ニューヨーク・タイムズ記者。1956年ニューヨーク生まれ。CIA、国防総省などのインテリジェンスを30年近くにわたってカバー。88年ピュリッツァー賞、本書で全米図書賞(National Book Award)を受賞した。日本語版のため新たに2章を書き下ろし。

文藝春秋 各1950円 上464ページ、下476ページ

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