正念場の国家公務員制度改革、天下り・渡り斡旋と年功序列を廃止せよ

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天下りと並んで、省益優先主義を維持するための重要な仕掛けが、民間企業ではもはや死語になった年功序列制である。国家公務員�種試験にパスしたキャリアなら、能力や実績に関係なく7年で課長補佐、20年で課長になるというパターンが決まっている。給与は年齢に応じて上がっていく。

ところが、次長、局長と役職が上がるにつれ、当然ポストの数は減っていく。そこで、早期退職を勧奨すると同時に、退職後も年功序列的な給与を保証するため、天下りを斡旋するのである。

さらに、省益を実現するため、官僚は民間のみならず政治をも実質的にコントロールしている。上司である大臣の意向を無視して、自分たちに都合のいい「ご説明」を族議員にして回る。御用学者を利用して審議会の議論を誘導し、省益にかなう政策にお墨付きを与える。これらは、官僚の常套手段だ。こうした官僚支配の結果、日本の政治の実態は、憲法に本来定められた議院内閣制ではなく、「官僚内閣制」(飯尾潤・政策研究大学院大学教授)になってしまっている。

官僚内閣制を打破し、「真の議院内閣制にしないといけない」(渡辺・元行革担当相)のは当然だ。

年功序列制支える給与法

そのためには、どうすればいいか。天下りや渡りの斡旋と年功序列制こそが、省益優先主義を生み出す源泉なのだから、とにかくこの二つを廃止する必要がある。

天下りや渡りに関しては、法律を見直すことで、各省庁による斡旋を即刻やめさせるべきだ。民主党のように、天下りや渡り自体を根絶させるべきとの考えもあるが、この点、高橋教授は、「押し付け的な斡旋ではなく、求められた先に自分の意思で再就職するのは問題ない」と主張する。年功序列制を残したまま、天下りそのものを禁止すると、定年までしがみつく官僚が増える。かえって人件費の増大を招き、国民の負担につながる。

一方、年功序列制を支える法律が、給与法である。給与法に基づき給与を決める俸給表は年齢にリンクしており、年功序列的に運用されている。年功序列制を変えるには、給与法を見直さなければならない。

07年の国家公務員法改正に続き、福田康夫内閣下の08年6月には国家公務員制度改革基本法が成立。これに基づき、内閣官房に中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事・行政管理局」が来年4月に設置されることになった。2月3日には、これを含めた今後の公務員制度改革全体の工程表も決定された。天下りや渡りの斡旋禁止だけでなく、内閣人事・行政管理局設置に対しても、官僚の抵抗は激しい。だが、近づく総選挙を意識してか、公務員制度改革では与野党ともに、官僚の抵抗を排除し、積極姿勢をアピールすべきとの声が強まりつつある。このムードを後退させてはいけない。

公務員制度改革はこれまで何度も試みられたが、そのつど官僚の激しい抵抗に遭い、ごく一部の手直しにとどまってきた。だが、官僚が実質的に政治をも支配している以上、官僚制度を変えなければ、政治の実態も変わらない。

(柿沼茂喜 =週刊東洋経済)

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